サッカー王子っていうのは、もちろん東条くんのことなんだけど。

「助けてもらっただけで、なんにもないよー」

 って言うと、みんな

「えーっ。やっと朱里の恋バナが聞けると思ったのにぃ」

 なんて言いながらも、ホッとした顔をしてたっけ。


 いつもみんなの恋バナに全然参加できなくて、他の子たちからは「もっと男子に興味持ちなよー」なんて言われるんだけど、わたしはもう人間とは恋をしないって決めてるから。


 なのに——。


「気をつけて帰れよ」ってニカッと笑って練習に戻っていく東条くんのうしろ姿を見送っていたら、また全身の血がドクンドクンって暴れ出した。


 それと同時に、なんだか自分のヴァンパイアとしての本能が抑えきれなくなってくる。

 こんなこと、考えたこともなかったのに。


 ——東条くんの血が欲しい。


 その欲望で、頭の中がいっぱい。

 けど、言えない……言えないよ、そんなこと。


 だって、そんな気持ち悪いことを言ったら、絶対に嫌われちゃう。

 ダメだよ。ムリ。わたしには言えない。

 苦しくて、切なくて、胸がぎゅーっと締め付けられるみたい。


 なんとか自分を落ち着かせようと、目を閉じ、深く深呼吸する。