「ほら、これ。さっき言ってた、僕のオススメの本だよ。この本はね、W主人公で、視点が入れ替わりながら進むんだけど——」


 白都くんが本の解説をしてくれている声が耳を通りすぎていき、代わりにわたしの視線は運動場を駆け回る東条くんのことを追っていた。

 わたしは、誰も傷つけたくないし、自分も傷つきたくない。

 そんなのしょせんキレイごとだよって言われちゃいそうだけど、それでもわたしは——。


「ねえ、朱里ちゃん。誰を見ているの?」


 ハッと我に返って白都くんの方を見ると——うわわっ、ものすごく不機嫌そうな顔。


「ううん。外、暑そうだなーと思って」


 なんとか笑ってごまかそうとするわたしの顔を、白都くんがじーっと見つめてくる。

 怪しまれてる……?


「わ、わたしも白都くんにオススメしたい本があったんだ。えーっとね……あ、これこれ! この本、設定がすごく変わっててね——」


 へぇ、そうなんだーって相槌を打ちながら笑顔でわたしの話を聞いてくれているんだけど、白都くんの目の奥は全然笑っていなくて……なんだかちょっと怖かった。