あれは忘れもしない、わたし、西宮朱里の5歳の誕生日の夜のこと。
本当なら、みんなにいっぱいお祝いしてもらって、ハッピーな一日で終わるはずだった。
なのに、わたしの心は深い深い沼の底に沈んだみたいに真っ暗で、一生陽の光なんか届かないんじゃないかって思ってた。
だって、お父さんとお母さんが『あんなこと』を言うんだもん。
泣きながらお隣の南くんちのドアを叩いて、逃げ場なんかどこにもないってわかってるのに、わたしはこの現実からなんとか逃げようとした。
「どうしたの?」
泣きじゃくるわたしに、南くんが優しく声をかけてくれる。
がらんとした南くんのお部屋の真ん中で、なかなか泣き止まないわたしの背中をそっとさすってくれて。
それがなんだか余計に悲しくて、お部屋の中にはわたしの泣き声だけがずっと響いてた。
「……あのね、朱里、南くんとはちがうんだって」
しばらくして、ちょっと落ち着いてきたわたしは、おもいきって南くんに打ち明けた。
「ちがうって。そりゃあ、僕は男の子で、朱里は女の子だからね」
「ううん、そんなんじゃないの。朱里ね……普通の人間じゃないんだって。よくわかんないけど、半分ヴァンパイアっていうのなんだって」
南くんが、困った顔で小首をかしげてる。
そうだよね。『ヴァンパイア』なんて言葉、普通の5歳の子は知らないよね。