「もう少し持ち上げて……」


ふたりで同時にグッと力を込めて持ち上げた瞬間、かけてあった布がズレた。
赤い布はそのままズルズルとずれていき、床に落下する。

鏡にはコテージの様子が映るはずだった。
だってそれは、鏡なのだから。

だけどそこに浮かび上がってきたのは見たこともない小さな女の子の姿だったのだ。
女の子は青白い顔をしていて、額から血を流している。
その血は頬を濡らしてポタポタと床へ落ちていく。


「キャア!!」


悲鳴を上げたのは亜希だった。
和也も咄嗟に鏡から身を離していた。

しかし鏡の中を覗き込んでみても、映っているのはコテージの内部の様子だけだった。
女の子の姿なんてどこにもない。
血に濡れた、女の子の姿なんて。


「今の……見た?」


亜希がカタカタと小さく体を震わせて聞いてくる。
和也は無言で頷いた。

そして布をしっかりと鏡に掛け直す。
今度は簡単に外れないように、布ごと手で握りしめて運ぶ。

早く、早く。
そんな気持ちでふたりは鏡を倉庫へと運んだのだった。