程よく酔いが回ったタイミングで、ディナーの時間だ。

エレベーターホールに、1人の男が立っていた。まだ若いが、高級ブランドの服を着ている。時計はロレックスだ。靴はフェラガモ。全て新品に見える。

横顔が生き生きとしていた。色白だが、血色と艶のいい肌をしている。順風満帆なオーラを放っていた。

男が黒沢の視線に気づいて、僅かに顔を黒沢に向けた。黒沢は目をそらさずに、男の顔を見た。なかなか整った顔をしている。

男が微笑み、軽く会釈をした。
邪気の無い笑顔。
黒沢も笑顔で返した。

『景気が良さそうですね』

黒沢は挨拶代わりに言った。

『ぼちぼちですかね』

男が物怖じせずに応えた。その時黒沢は、僅かに違和感を覚えたが、違和感の正体が解らない。

エレベーターの扉が開いた黒沢がエレベーターに乗ると、男も続いた。黒沢がすぐ下の階を押す。男はボタンを押さなかった。どうやら同じ行き先らしい。

エレベーターの扉が開いた。黒沢は開のボタンを押しながら、男に先に降りるよう促す。

『どうも』と、男は笑顔で会釈しながらエレベーターから出る。黒沢も続いて降りた。男が左右を見渡している。その仕草で、男に更なる違和感を覚えた。