『ゆっくりでいいさ、週末の昼に取りにくるから、それまでに、変わった客が来たら知らせて欲しいんだ』

『変わった客とは?』

『そう…、初めて見る顔で、年齢は30代くらいかな…、とにかく場違いな雰囲気で、高い服を注文する男』

黒沢は名刺にボールペンで携帯番号を記入し、店主に手渡した。受け取りながら店主は頷き、キャッシュカードと領収書を黒沢に手渡した。領収書に記入された金額は30万円だった。

店を出た黒沢は、その足で靴屋へ行き靴を買い、やはりキャッシュカードで支払いを済ませた。
黒沢は警察庁から自由に使えるキャッシュカードを支給されていた。

携帯を取り出し、ホテルを予約してから、銀行で100万円の現金を下ろした。当面の捜査費用である。アコードを運転し、T国ホテルへ乗り入れた。

フロントでフランス料理のディナーを予約してからチェックインした。最上階のスィートルールだ。
窓から皇居が見下ろせる。皇居の向こう側の空は赤く染まっていた。ディナーまではまだ時間がある。黒沢はバーラウンジに移動し、窓辺に設置されたカウンターに座り、年代物の高級ウィスキーをロックで注文した。

暮れなずむ都会の景色を眺めながら、黒沢は携帯を取り出し、会員制の高級売春クラブへ電話をし、部屋番号を告げた。