今回はどうするべきか？

まず黒沢は、大金を得た後の男の心理状態に思いを巡らせた。

（俺ならまずは新しい服や靴を購入する…最高級の…最高級の服を着れば、最高級の料理…酒、そして女…）

黒沢は銀座に向かった。訪れた場所は、紳士服店。かなり高級な仕立てしかしない店だ。生地も最高級だ。安物は置いていない。黒沢はこの店の常連だった。客筋は様々だが、殆どは大企業の社長や、政界の大物、広域暴力団の組長クラスや、にわか成金達だ。
店は路地裏にあり、店構えも古い。

黒沢が店に入ると、店主がミシンで作業中だった。年配の店主は、黒沢に気付くと、軽く会釈をしながら手を止めた。

『また事件かね』

店主が柔和な笑みを浮かべながら尋ねた。

『まあ、そんなところさ…』

黒沢は陳列棚に吊してある生地を眺めながら答えた。

『今回はコレで頼むよ』

黒沢が地味な濃紺の生地を示した。生地は最高級だ。今黒沢が着ているスーツも濃紺だ。

『デザインはコレと同じでいいよ』

黒沢は自分の着ているスーツを指で示した。

『あんたはいつも紺の無地だね…他にいくらでもあるのに…ウェストサイズは変わってないかね？』
店主が生地を手に取りながら尋ねた。

『見ての通りさ…で、早速だけど、先月の２６日以降に変わった客は来てないかな？』

店主は遠くを見る目で少し考えてから

『はて…特には…。仕上げは急ぎかな？』