だとすれば犯人は、都心の防犯カメラに関わる職業の人物…それならば監視カメラを停止させる事も可能かもしれない。監視カメラの死角をたどりながら銀行にたどり着いた犯人…そこまで考えて壁に当たる。銀行への侵入方法は?金庫室へはどうやって?

謎は深まるばかりだった。

黒沢は庁舎の裏口から駐車場へ出た。白いアコードセダンが黒沢の車だ。警察庁から黒沢専用に与えられている車である。勿論異例な事である。黒沢はアコードに乗り込むと、すぐに車を発進したが、特に行くあてはない。黒沢は俗に言う、特命捜査官だった。階級は警視だが、命令系統の枠の外で捜査をする権限を与えられている。特命が下されれば、その後は自由に動ける立場なのだが、協力者や部下はいない。全ての捜査は単独で行う。

今回のような不可解な事件には、必ず特命が下される。組織力だけでは解決が困難とされる事件が黒沢の領域なのだ。捜査班と同じ視点での捜査はしない。己の感とスキルだけが頼りだ。ただし、情報と資金だけは潤沢に与えられている。

犯人の思考を読む事が黒沢の特技であり、独自の発想で実績も残している。犯人に繋がる情報を掴むまでが、黒沢の任務であり、逮捕などはせずに、情報を掴み、報告をすれば任務完了となるのだ。