内部犯行なら銀行にとって、致命的な不祥事である。通報が遅れたのは無理もないだろう。

黒沢は無言だった。

『とにかく独自に捜査を開始してくれ。手段は選ばずにだ。定期報告は必ず入れてくれ。以上だ』

黒沢は無言で一礼すると部屋を出た。

庁舎の廊下を歩きながらも、黒沢は犯人の思考に思いを巡らせていた。

これだけの事件は未だかつて無い。方法は不明だが、かなりの資金力と組織力が無ければ不可能な犯罪と考えるのが普通だが、事件には人間の匂いが感じられなかった。不審者は1人も目撃されていない。防犯カメラには何も映っていない。壁や扉が破壊された痕跡すら無い。一晩で一カ所から数億円づつが消えている。犯人が1人であっても充分に持ち去れる量だ。犯人が複数なら、根こそぎ持ち去るのでは?

全ての銀行は金庫室から一度に二億円前後を盗まれている。
なぜ根こそぎでは無かったのか?

二億ならば、スポーツバック一つあれば持ち歩ける量だ。犯行時刻に、各銀行の付近の防犯カメラにも、これといった不審者は映っていない。都内は監視カメラで溢れている。単独犯ならば、大きな荷物を抱えた同一人物が、銀行周辺の監視カメラに複数記録されている筈だが、それらしい人物や車両は確認されていない。可能性としては、犯人が全ての監視カメラの死角を把握していたというのか?