桐山が立っている辺りを、険しい顔で凝視している。

一瞬だけ眼があったような気がして、今度は桐山が慌ててしまったが、やはり女には桐山が見えていない。

不意に女が立ち上がり、レシートとバッグを掴んでレジへ向かって歩き始めた。気味が悪くなったらしい。

テーブルにはまだ食べかけのサラダとトースト、コンソメスープが残されていたが、さすがに食いかけを食べる気にはならなかった。

桐山は厨房へ向かった。

厨房とフロアに挟まれた細長い廊下のようなスペースに踏み入ると、裸足の足の裏が油で滑った。タイル張りの床がヒヤリと冷たかった。厨房から出される料理を置くカウンターに、朝メニューらしい焼き魚定食が置かれていた。店員はまだ居ない。

今だ!

桐山は急いで朝食膳のトレイを両手で掴み、自室をイメージし念じた。

次の瞬間、桐山は自室に立っていた。

凄い…

桐山は全身を歓喜に震わせた。

手には、焼き魚定食の鮭の切り身が、まだ薄っすらと湯気を立てていた。