桐山栄一は携帯のアラームで目覚めた。
午前6時だ。

一瞬すぐに起きようとしたが、すぐに思いとどまる。
桐山は昨日職場を解雇されているからだ。正確には解雇ではなく、契約解除である。桐山は派遣社員だったからだ。
本来なら、まだ2ヶ月の契約期間を残しているのだが、些細なミスを理由に、一方的に契約を中途解除されてしまったのだ。
不況の波を最初に受けるのは派遣社員だ。中でも桐山は脚が少し不自由な為、今回の様な事は初めてではない。

工業高校を卒業後、桐山は大手の自動車メーカーに、エンジニアとして入社した。ようやく仕事を覚えた三年目の冬、桐山は仲間とスキーに行った際に、急斜面で転倒し、右大腿骨を複雑骨折している。全治6ヶ月の重傷は、13年を経た現在でも後遺症を残すに至っている。誰が見てもそれと解るぼど、桐山の歩行には違和感がある。

昨夜は終電ギリギリまで派遣仲間と酒を飲んだ。

頭が重い…

二日酔いというより、まだ酔っているのが自覚出来た。

桐山は尿意を覚え体を起こした。

ベッドから両脚を床に下ろし、健常な左脚に重心をかけながら立ち上がる。

六畳ワンルームの部屋だから、トイレは目の前だ。