「えぇ~っ、じゃあ何?そのイケメンマッチョのアレをにぎにぎしたのッ?!」
「っっ……」
「咲良、声デカい」
「ごめんごめん。……で、どうだった?」
「どうって?」
「マッチョな彼は、アレも……(大きいの)?」

口パクで聞いてくる咲良。
食事中にする会話じゃない。
話し始めたのは私だけれど、さすがに聞かれても困る。

「そもそも、触ったこともないんだから、分かるわけないでしょ…」
「そうか、……そうだよね」
「どこの高校の人なの?」
「……分からない。頭がパニクってたし、殆ど記憶になくて」

掴んだ感触は生々しいのに、着ていた制服や持っていた鞄とか、よく憶えていない。

「名前は?何ていう人?同じ駅使ってる高校でイケメンでマッチョなら、尚理(なおり)(ちとせの彼)なら知ってるかも」
「それがね、……気が動転してて、名前すら聞くの忘れちゃって」
「えっ?」
「名前聞いてないの?」
「……うん」

謝罪しなければならない状況だったのに、追い払うみたいにあしらったのは私だ。

彼は怪我してないか聞いてくれたのに。
彼の気遣いですら、羞恥心で軽視してしまった。

「名前も分からないんじゃ…」
「駅で待ち伏せしてみる?もしかしたら、行き会えるかもよ?」
「そんなタイミングよく会えるものかなぁ」
「うちらあと半年で卒業だし、別に会えなくても問題ないでしょ」
「……そうかもしれないけど」

心にわだかまりというか、後悔のような罪悪感が残る。

「仕方ないよ。雫にとっては、大事件だったんだから」
「……ちーちゃん」