推薦入試が明日で、センター試験なんてまだ先なのに。
彼と手を繋いでると、何でも上手くいくんじゃないかとさえ思える。

「津田くんのこと好きな子なんて、腐るほどいるよ?」
「いないっすよ」
「いるよっ!……最近、毎日のようにバレー部の子に手作りの焼き菓子貰ってるんでしょ?」
「は?……嫉妬っすか?」
「っ……。その子に限らず、北棟だけでも凄い人気者なのは知ってるけど、南棟にだって、最近津田くんファンの子いるんだからっ」

さっちゃんが仕入れて来た情報だと、私が素っ気ない態度を示してるから、そのうち心変わりするだろうという噂が飛び交っているらしい。
そして、あわよくば的な感じで、お近づきになりたい子たちが密かに増えているのだとか。

彼が南棟のテラスに現れただけで、女子が騒いでるのが分かるもん。
カッコいいうえに空手でも実績をあげているから。

「確かに焼き菓子っぽい包みの物を貰って欲しいとは言われましたけど、ちゃんと断りましたよ。ってか、最初から貰う気ないし」
「……」
「ホントっすよ?」

急に立ち止まった彼。
合わせるように私も足を止めると、顔を覗き込むみたいにして、彼の瞳と視線が交わる。

「俺が好きなのは雫先輩なんすけど」
「……」
「俺、本気で先輩を嫁にする気なんで」
「へっ?」
「彼氏で終わるつもりはないっす」
「……」
「あの婚姻届、冗談抜きで本気で貰いに行ったんで」
「ッ?!!」
「それくらいマジで好きなんすよ、先輩が」

繋いでる手がグイッと引き寄せられ、長い腕にぎゅっと抱き締められた。

「信じて貰えるまで、何度でも。幾らだって言いますから。好きですよ、先輩」