**

津田くんを呼び出して、推薦入試前日にデートを楽しむ。

雫が志望しているのは、国立大学の歯学部歯学科。
だから、正式には医学部ではない。
医師=医学部だと、さっちゃんは思い込んでいるけれど。

推薦入試だからといって、小論文と面接が受かれば終わりというわけではない。
国立大学だから、当然のようにセンター試験を受けなければならなくて。

推薦入試に合格しておけば、お守り代わりにはなる。

「ゲン担ぎというより、俺の守護神みたいなもんすよ」
「……どんなこと?」

彼の強運にあやかりたい。

「先輩に貰ったメダルリボンです」
「へ?」
「手のひらサイズのフォトフレームみたいなやつに入れてるんすけど、それを道着袋の中に忍ばせて、試合会場に持って行ってます」
「………えぇぇっ?!」
「前にも言ったと思いますけど、俺にとっては空手の女神様なんで」

にかっと笑った彼は、少し照れくさそうに頭を掻く。

確かにあの頃の私は最強だったかもしれないけれど、今はもうどこにでもいる普通の……いや、ちょっと厳つい女子だよ。
幸運を呼び寄せるだとか、勝利をもたらすとかは全然、全くないと思うけど。

「じゃあ、津田くんの何か、いつも身に着けてるようなもの、一つ貰えるかな…」
「え?……俺のっすか?」
「うん。津田くんの強運を私にも分けて欲しいの」

本当は、ちーちゃんやさっちゃんが言うみたいに、『付き合う』ことを承諾したら済む話なのかもしれない。
心の拠りどころというか、支えみたいな存在があったら頑張れると言うから。

今の私には、まだその覚悟がなくて。
それでも狡く、彼との関係を断ち切りたいとは思えない。

こんな私でも、女の子扱いしてくれる唯一の人だから。