(虎太郎視点)

十一月下旬。
先輩が通う塾の共通テストが終わり、学校の期末テストが始まる直前。

雫先輩から一通のメールが届いた。
『日曜日、少し会える?』

これはひょっとして、俗にいう『デートのお誘い』というやつだろうか?

俺から誘ったことはあるし、毎日のように学校でも会える。
大学受験を控えている先輩を困らせたくなくて、あれ以来デートには誘っていないけれど。

いや、待て。
違うかもしれない。
昼休みも南棟に来るな的なことを言うための呼び出し?
だとすると、断った方がいいのか……。

部室で悶々とスマホを握りしめ、溜息を零していると。

「うーん、うーん、唸ってんなら便所に行って来い。スッキリするぞっ」

着替えが終わった朋希が、スパーンと頭を叩いて来た。

「先輩から、日曜に会えるか?ってメールが来たんだけど、これいい方に取っていいと思う?」
「デートの誘いに良いも悪いもあんのかよ」
「……やっぱりデートの誘いだよな」
「他に何があんの?」
「いや、……もう南棟に来んな的な、トドメかと思って」
「お前、そんなにやらかしてんのかよ」
「……そんなつもりはないんだけど、こればかりは分かんねぇじゃん」
「まーな」

『午前中は稽古なので、午後なら』

送信ボタンを押して、じわっと嫌な汗が滲む。

「お前のメンタル、マジでガラスな」
「うっせぇな」
「昔と全然変わんねーの」
「うるせぇって言ってんだろ」
「女神様が微笑んでくれてないと、自信も何もかもすぐにどっか行くのな」
「っ……」
「まっ、それでこそ虎太だけど」