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放課後、塾へ行くために帰り支度をしていると、さっちゃんが小声で声をかけて来た。

「ねぇ、雫、聞いた?」
「ん?何を…?」
「津田くん、オリンピックの強化選手に選ばれてから、結構告白する子が増えたんだって」
「……そ、そうなんだ」

そりゃあそうだよね。
カッコいいし、イケメンだし、あの体格で空手でかなり有名なんだから。
アスリート系が好きな子たちからしたら、硬派で紳士的な彼はまさに王子様だろう。

「津田くんから、告白とかされてないの?」
「……う~ん、された、に入るのかな」
「えっえっ、どういうこと?ねぇねぇ、その話もっと詳しく教えてよっ」
「ちーも聞きたーい」

リュックを背負って教室を後にする。
最寄り駅までの道のりで、これまでのことをざっと話す。

「ホント、雫は白黒はっきりつけないと気が済まないタイプだもんね」
「今は恋愛よりも勉強が第一でしょ?」
「そりゃあそうかもしれないけど、彼氏がいるのといないのとではモチベーション変わるよ?」
「変わるってどんな風に?」

彼氏持ちの二人から、恋愛のメリットを伝授して貰えれば、少しは前向きになれるのかな。

「勉強に煮詰まって苛々した時とか、『アイス食べたーい』ってLINEしたら速攻で買って来てくれるよ」
「それは尚理くんができてる王子様だからね。普通の男子は買いに行って来いで終わると思う」
「まーくんは気晴らしにドライブに連れてってくれるよ?」
「ドライブはいいけど、事故にでも遭ったら本末転倒じゃない」
「もうっ、雫はなんでそんなにネガティブかなぁ。昔はこんな子じゃなかったよね?中学2年くらいから?」

格闘技を辞めると決めて、勉強にシフトし始めた頃からだ。
概念ですら覆すほど、雫の中では慎重な性格になった。