有名人なのは、私じゃなくてあなたでしょ。
北校舎の壁に垂れ幕が下がっているのに、今朝気が付いた。

プロのアスリートを目指す子たちが通う科だから、主要大会で優秀な成績をおさめた人の垂れ幕がずらりと並んでいる。

「それだけで足りるの?」
「2時間目終わりに、パンを食べたんで」
「……」

そりゃあそうか。
学食だけで足りるわけないよね。
しかも南棟の学食は、北棟みたいなボリューミーなメニューはないしね。

日替わりランチを頼んだ彼は、当然のように雫の隣りに腰を下ろした。
咲良が場所取りしたテーブルは、エアコンの風が程よく当たる特等席なのだ。

「先輩方は、もう進路とか決まってるんですか?」

突然の彼の質問に、3人の手が止まる。
卒業まで約半年。
当然、進路は決まっている。

「うちら3人とも国立志望だけど、同じ大学ってわけじゃないの」
「そうなんすか?」
「うん。雫は医学部、私は教育学部、ちとせは獣医学部だよ」
「うぉぉ~っ、さすがっすね!」

雫とちとせは、医塾と呼ばれる医学系専門の塾にも通っている。
白修館は中学部から大学まであるが、大学に医学部は無い。
だから、医学系を目指すなら、必然的に外部受験しなければならない。

「あと半年しかないんすね」
「……そうだね」

別々の大学を志望すると決めた時点で、3人で過ごす時間はカウントダウンを始めた。

「第一志望が受かれば、大学自体は結構距離が近いの。3人とも都内の大学志望だから、会おうと思えばいつでも会えるんだけどね」
「そうなんすか?」
「うん。だから、雫にも会えるから安心しな」
「それが一番聞きたかったっす」
「だよね」
「さっちゃん!」