この日、はるかは僕が家にくるから、僕の好きだったお酒を用意する為に買い物に出たそうだ。

最寄り駅の大きな商業施設で、お酒と部屋に飾るお花。
そのお花に添えてあったのが二つ折りの手紙。

ゆうまと会うから、ゆうまの為に買いに出た。
その帰りに事故に遭った。
100%運転していたやつのせい。

でも、今はそんなことどうでもいい。

はるかが・・・。

呼吸はしている、心臓も動いている、けど意識がない。

「…はるか」
「……はるか」

「…」

目の前にいるのに話すことができない。
触れることはできても、反応がない。

久しぶりに見たはるかの顔は少し痩せているようにも見えた。
きっとご飯もあまり食べられなかったのだろう。

いつもは僕が作ってた、用意していた。
よくはるかが言っていた。

「ゆうまの作る料理が一番美味しい〜!!」

そう言って普段少食な、はるかはいつもたくさん食べていた。

そんなはるかを見たくて料理を頑張っていた。
苦ではなかった。
その笑顔を見るためになんでもやれた。



「…はるか、、」
「はるか、今日のご飯は何が食べたい!?」

「…」

「はるか……」

「…」

いつもすぐ帰ってきた返答がない。

「はるか、、」



「ゆうまさん、はっきり言いますと、はるかさんはいつ目を覚ますか分からない状況です」
「でも、はるかさんは懸命に生きようとしています」
「私たちは最善を尽くします」
「だから…負けずに声をかけてあげてください」

「…声を?」

「はい」
「目を覚ましてはいませんが、体の意識はあると信じています」

「…体の??」

「その意識がこれまで体が覚えているゆうまさんの声に、体温に反応し、意識復活につながると思っていますから!」

「だからいつものように名前を呼んであげてください」
「話しかけてください」
「それが今のはるかさんにはとても大事なことです」

スピリチュアルなことだと思った。
普段運勢とかも信じない僕だけど・・・
すがる想いで「はい」と答えた。


「…はるか、一緒にがんばろうね」
「また来るから」
「…先生、どうか・・・どうかはるかをよろしくお願いします」

「もちろんです」
「どれだけ時間がかかっても一緒に頑張りましょうね」

「はい、、がんばります」

「じゃあ、、はるかまたね」

ガラガラガラ…

病室を出た。
それから病院の手続きや警察とのやり取りをした。
どんな話をしたのかあまり覚えていない。
それに、どうやって家に帰ってきたのかも思い出せない。



ガチャ….

真っ暗な僕らの家。

ほんとだったら、今日はるかとここで会って話をする予定だった。
どんな結末になるか、不安もあったし怖かった。
でも、避けて通れないから今日約束の日にした。

けど、、、家にはるかがいない。

スタスタスタ….

ガチャ

久しぶりの寝室。
綺麗に布団が直されている。
はるからしいと思った。

・・・

バタン

綺麗な布団に倒れ込んだ。

「・・・はるか」
「な、、、なんでこんなことに・・・」
「・・・あっ」

布団からほのかにはるかの匂いがした。

「…」

1ヶ月以上、はるかはこの大きなベットに1人で寝ていた。
その匂いが残っている。

こんな大きなベッドに1人で・・・

「・・・ぐぅ、、、、あぁぁ、、、」

唐突に起こった今日のこと。
家を出るキッカケになったこと。
そして、家を出てからのこと。

走馬灯のように頭を巡った。
そして。
言いようもない感情に襲われ、大声を出して泣き涙が止まらなかった。


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