4
高校生活が始まり、一週間が経った。
今のところは友達は一人も作れていない。
最初はみんな私に気を遣って話かけてくれたが、それもほんの最初のうちだけ。
私から話しかけるなんて、そんな勇気はない。
私は次第に教室の空気と同化していっている気がした。
そんな考えをしていた憂鬱な朝、いつものルーティンをこなし学校へ向かう。
今日はパンにチョコレートを塗った。
少し気持ちもリフレッシュ出来た気がする。
「今日も1日頑張ろう」と心の中で思い、私はいってきますと母親に言いオイスターな私になる。
登下校中ピンク色の桜が咲き始めていてとても綺麗で心奪われた。
私の症状も桜の開花と同時に治ればいいのにと思ったが現実はそう甘く無い。
私の症状は治らない。
学校につき教室に入ると感じる。
最近はグループが出来始めている。
男男のグループ、女女のグループ、男女のグループができ始めている。
楽しそうに話をしている人が沢山いる。
私はどこのグループとも属さない、いわゆる1匹狼というやつになってしまっている。
まあ私には美雪ちゃんがいるから大丈夫と自分に言い聞かせて、自分の席に着くと一人でスマホと会話する。
そんな毎日を送っていた。
そんなある日事件が起きた。
クラスの学級委員費約10万円がどこかに紛失したのだ。
私はもちろんやっていない。
しかしクラスのとある女子が私に聞こえる声で
「もしかして安西さんがやったのかもね」
と嘘を言い出した。
クラス中が私の方を見る。
敵を見る目だ。
私は視線に耐えられなくなりトイレに向かった。
私は断じてやっていない。
そう思いながら顔を洗って手を洗い心を落ち着かせる。
「私はやっていない」と言いたいが喋る事が出来ない。
もどかしくて胸が苦しくなる……
そしてその日の学校終わり、私のジャンバーが教室の隅でくしゃくしゃに潰されていた。
5
私は現在進行形で、いじめを受けている。
そのことを親にも美雪ちゃんにも相談出来なかった。
いじめのあった日の翌日、美雪ちゃんと一緒に学食を食べていた。
「着るの朝さんの小説面白いよねー」
それに対して私は一拍時間を置いて、君の心臓を食べたいが好きと紙に書いて返答した。
すると私の些細な変化に気づいたのか
「優ちゃん今日いつもと様子が変だよ大丈夫?」
そう心配してくれた。
私は「大丈夫」と紙に書いて返事をする。
美雪ちゃんに心配はかけられない。
「そう、ならいいけど」
美雪ちゃんはそう言い、学食を食べ終えて教室へ帰ると、クラスは賑わっていた。
昼食後はスマホと会話するのが私の日常。
このままこれ以上いじめは無くなってくれと心の中で思った。
しかしいじめは終わらなかった。
「いてっ」
席に座ろうとするとお尻に鋭い痛みが走った。
なんだろうと思って、お尻の下を確認するとそこには金色の画鋲が一つ落ちていた。
私の姿を見て周りの人はくすくす笑っている。
私はこの状態に耐えきれなくなり泣き出してしまいそうだったがなんとか堪えた。
その日は先輩たちの部活紹介があったが私はなんの部活も入る気がないので楽しそうだなーと思いながらぼうっと見ていた。
その日、家について学校にもう行きたくないと思った。
親から学校の調子はどう?と聞かれたが私は順調だよと嘘をついた。
自分が虐められているなんて親に相談する事は出来ない。
親に余計な心配をかけさせるわけにはいかない。
その日は憂鬱な気持ちで眠りに落ちた。
次の日学校へ行くと私の上靴がなくなっていた。
探したらゴミ箱の中に入っていた。
幸いにも汚れがつくようなものはなかった。
これからさらに何が起こるのだろう、不安な気持ちが私を襲う。
教室につき座る前に椅子の上に画鋲がないか確認する。
今日は何もなくてホッとした。
今日も教室で一人でスマホと睨めっこ。
誰からも話しかかれないないだろうと思ったが一人の女のクラスメイトがこっちに向かって歩いてきた。
まさか話しかけれないだろうと思ったが、その子は私の目の前で足を止めた。
「学級費盗んだのお前だろ?」
悪そうな笑みを浮かべて私に話かけてきた。
私じゃないと紙に書いて伝えようとすると、その前に彼女は
「早いうち白状しないともっと酷いことになるよ」
私は背筋が凍った。
その時一人の男子生徒が私の方に近づいてきた。
私はまた何か言われると思い、心臓の鼓動が早くなった。
しかし男子生徒は私の方ではなく、彼女に向かって
「安西がやったって証拠あんの……?ないだろ?」
「変な言いがかりやめろよ、安西に何かするつもりならお前にも酷いことしてやろうか」
と言った。
そのクラスメイトは一条薫だった。
周囲がざわついている。
その日から私へのいじめはきっぱりなくなった。
そして心残りが一つできた。
それは一条薫にありがとうと伝える事が出来なかった。
6
あれから一週間、家に帰り自分の部屋に入りあの時のことを振り返った。
ありがとうを言えなかった。
心残りでむずむずした。
私はベッドの上で枕に顔を埋めて、大きなため息をついた。
今日こそ言おう、今日こそ言おうと思っていても体が思うように言うことを聞かない。
どうすればいいのだろう。
こんな事で悩む自分が情けない。
いっそ今までのことを全部美雪ちゃんに相談してしまえば……
美雪ちゃんなら分かってくれてどうすればいいかアドバイスをくれるに違いない。
私は少しの期待を持って美雪ちゃんに明日の昼ごはんの時相談しようと決めた。
「優、晩ごはんよー!」
そうこうしていると階段から母の呼ぶ声が聞こえたので階段を降りていく。
今日の晩御飯を匂いで当てようとする。
これは焼き魚の匂い。
魚の種類は分からない。
「これなんの魚?」
「秋刀魚よー」
秋刀魚は魚の中でNo. 1と言っていいほどライクである。
「いただきます」
手を合わせた後に中央を切って溝に黒い醤油を流し込むほくほくとした身に醤油が馴染んでいく。
まずは一口。
「おいひぃ〜!」
醤油のしょっぱさや魚の塩気に奥に感じる魚の甘み、旨みが口の中でダンスパーティーをしている。
熱々の白米と味噌汁を間に挟み、私は晩御飯を堪能した。
寝る前のルーティンをこなし明日こそありがとうと伝えるんだ、その為に美雪ちゃんに全部話そうと思い眠りに落ちた。
その日夢を見た。
自由に喋れるようになった私が一条薫と手を繋ぎ仲良く喋っている夢をみた。
起床後なんでこんな夢を見たのかぼうっとしながり考えていたが、そんな余裕な時間はないので朝ごはんを食べ学校へ行く準備をした。
今日は大事な日だ、食パンにはマーガリンと砂糖をつけて食べた。
時間というのはあっという間でその日は何事もなく昼食の時間になった。
私は美雪ちゃんのところへ向かう。
今までのことをすべて相談するのだ。
7
次の日ももちろんいじめはなかった。
学食の時間、美雪ちゃんと中華丼を食べる。
今まであったいじめの話をしようと思ったがなかなか伝えることが出来る気分にはならない。
すると美雪ちゃんが
「最近うちのクラスでいじめがあったんだよね」
「優ちゃんは大丈夫だよね?」
と私が言いたいことを言い出しやすい空気を作ってくれた。
私は心の緊張が少し緩み
実は……と紙に書いて全てを話した。
すると美雪ちゃんは
「なんで私に話してくれなかったの?私たちの関係ってそんな薄かったっけ?」
と怒り顔で言ってきた。
私はすぐさま謝罪と理由を紙に書いて述べようとしたがその前に
「結果的にいじめはなくなってよかったけど、助けてくれた男の子にありがとうを言えてないということね」
「そういう時は菓子折り一つ持ってありがとうって一言伝えるだけでいいんだよ!」
私はそうかと感心した。
手作りクッキーを作って、それと一緒にありがとうを言えばいいのか。
美雪ちゃんはやっぱり頼りになる。
私はわかった!ありがとうと紙に書きその後は謝罪と弁明の時間で昼食を終わった。
自分の教室に戻り自分の席についた。
椅子の上に黄色い画鋲はもうない。
席に座った後回りを見渡し一条薫を探すと見つけた。
一人でイヤホンをし音楽を聴きながら勉強していた。
さすが秀才は普通の生徒とは違うと思った。
その日から定期的に彼を観察してみることにした。
今日も休み時間も勉強して友達と喋っているところを見とことがない。
昼食も一人で食べているみたいだった。
その次の日も次の日も彼は同じだった。
彼は私とは違う種類の1匹狼なのだろう。
例えるなら、一人でなんでも出来てしまうタイプの人種だと思った。
少し話しかけづらいと思ったが明日ありがとうを伝える為にクッキーを作ろうと決めた。
その日家に帰った後にクッキーの材料をスーパーへ買いにいく、材料コーナーで薄力粉、砂糖、バターを買う。
卵は家に沢山あるから大丈夫として味は何にしようかプレーンだと味気ないなと思った私は長く悩んだ末にチョコチップクッキーにすることにした。
クッキーを焼くなんて小学校のバレンタイン以来だな。
今は6月、全然時期が違うと思った。
クッキーを焼いている最中母から
「誰にプレゼントするの?」
「好きな人出来た?」
と聞かれたが違うと言って、話しかけてくる言葉を流した。
私はお菓子作りは休みの日によくやっているので得意な方だ。
1時間ほどで完成した。
明日クッキーを渡して、ありがとうを言おうとそう決めその日は眠りに落ちた。
8
朝自然と目が覚めた。
今日は私にとって大事な日、朝ごはんはもちろんパン。
今日はパンにピーナッツを塗って食べた。
登校する前の準備にクッキーを持って家を出る。
もちろん家族に行ってきますというのも忘れない。
登校中一条薫にクッキーを渡したらどんな顔をするのか考えていた。
いらないとか言われたらどうしよう……
喜んでくれるといいな……
不安も期待も心の中でいっぱいだ。
1時間という長い時間のある昼休みに渡さそうと私は考えた。
その日の3時間目は体育でバレーだった。
私はバレーは部活には入ってないがそこそこ得意ない方だ。
スパイクも難なく打てる。
その日は練習試合をして、対戦相手は一条薫のいるチームだった。
一条薫はスポーツも出来そうなイメージだ。
一条薫にスパイクが飛んでいく。
ボン!
ボールは一条薫の顔面を直撃した。
私は思わず、吹き出しそうになったがそれを堪える。
一条薫はムクっと起き上がると鼻血を垂らし保健室に直行していった。
どうやら一条薫は運動は苦手なようだ。
意外なところを見つけてしまった。
昼休み美雪ちゃんとご飯を食べ、さっきの出来事を紙に書いて伝える。
すると美雪ちゃんは
「勉強は出来てもスポーツは出来ないタイプなのかもしれないね」
「でもあの一条薫がスポーツは下手って面白すぎるでしょ」
と笑っていた。
私はそれに笑顔でうなずく。
学食を終え一条薫を探すと鼻にティッシュを詰め込みながらご飯をモリモリ一人で食べているところだった。
話しかけよう……そう思った時心の中で不安な気持ちが私を襲った。
だか美雪ちゃんに言われた言葉を思い出し。
紙に一条くん今時間いいかな?と書いて見せた。
すると一条薫は驚いた顔で
「え、俺に話かけてるの?」と驚いてる様子だった。
私は首をこくんと縦に振った。
「どうしたのいきなり?」
私は実は一条くんにこの前助けてもらったことのお礼言いたくてと紙に書いて見せた。
すると一条くんは
「あー、あの時のことね!あれ以来ひどいことされてないよね?」
私は首を縦に振った!
「よかったー!、早く友達沢山作りなよ!
じゃあな!」
会話を終わらせようとされたので私はその時透明な袋に入ったクッキーを一条くんの前に差し出した。
そして紙に、この前はありがとうと書いてみせた。
すると一条くんは
「クッキー!俺甘いのめっちゃ好きなんだ!ありがとう」
と言って喜んでくれた。
周りの人は私と一助くんが喋っているが珍しいのか周囲の視線を集めてしまっている。
私はそそくさと自分の席に戻った。
はぁ、緊張した。心の中で無事渡せたことを安堵した。
この日から少しずつ一条くんとの関係は変わっていくのであった。
9
今日ありがとうを伝えれた。
あとクッキーも渡せてよかったと、家についてからその余韻に浸っていた。
するとお母さんから
「クッキー渡せた?」
と聞かれたが、その質問に私は
「ばっちり渡せた!」
とドヤ顔で答えた。
今日は私の大勝利だ。
次の日の学校の休み時間私のルーティンをこなしている最中。
ふと何気なく一条くんを、観察しているといつも通り一人でイヤホンをして勉強していた。
いつも偉いなと思って、ぼうっとながめていると、
その時一条くんがこっちを見た。
その時一条くんと目が合った。
一条くんは少しびっくりしたような顔をした後、
勉強を中断しこちらに近づいてきた。
なんかまずいことしちゃったかな。
私の目の前で止まり
「昨日クッキー超うまかったわ!ありがとうね!」
と子犬のように笑顔で感謝を伝えてきた。
私は笑顔で反応した後、心の底から作って良かったと思った。
もう少し一条くんと喋りたいなと思ったが、何を話せばいいか分からず、何も思い浮かばない。
その時一助くんのスマホのイヤホンが外れて、
大音量で音楽が流れた。
教室中に音楽が響き渡る。
その音楽は私も大好きな、少しマイナーなTWO OK ROCKだった。
恥ずかしそうにスマホの音量を下げる一条くん。
「あ〜やったわ〜」
私は紙にtwo ok rock好きなの?いいよね?
と書いて見せた。
すると一条くんは顔色を変えて、
「めっちゃ好き!好きなの?」
私は首を縦に振る。
「このバンド知ってる人初めて見つけた!なんの曲が1番好き?」
と嬉しそうな顔で聞いてきた。
「ポーカーフェイス」と紙に書く。
「激渋だね!俺も好きだよその曲!あの曲は意味深だよね!」
私は手でいいねサインを作る。
この日から私たちは朝にはおはようの挨拶、昼休みには、雑談するようになった。
このことを美雪ちゃんに話したら
「ついに優ちゃんにも友達が出来たか……」
と考え深そうな顔で感動していた。
私も自分で驚いてる、まさか頭脳明晰の一条くんと友達になるとは……
まあスポーツはダメダメっぽいんだけね。
10
「俺この歌手もそんなに有名じゃないけど好きなんだよね!カラオケで歌うとマジ最高なんだよ」
目をキラキラさせて彼は言う。
「あ、ごめん嫌味な意味ではないからね」
私は家の外に出たら喋ることが出来ないのでカラオケというものは行ったことがなかった。
でも家でなら歌うことができる。
「いつか人前で話せるようになるといいな!」
一条くんは優しくフォローしてくれた。
私はカラオケに行ってみたい!と紙に書いて一条くんに見せた。
「まじ?本当に?」
と言って衝撃を受けたような表情をしていた。
私はカラオケというものに行ったことがなかったので行ってみたい気持ちと、一条くんの歌を聞いてみたいという気持ちがあった。
そして紙に一条くんの歌を聞かせてと書いた。
「おうけい、わかった!期待はするなよ!」
一条くんは太陽のような笑顔で言った。
「安西さん今日の放課後空いてる?」
私は放課後は、基本家に帰るだけの用事しかないので、
空いてるよ!と紙に書いて答える。
「よし決まりだな、今日カラオケ行こう!テンション上がるわっ!」
嬉しそうな一条くんを見て私もなんだか嬉しい気持ちになる。
その日の放課後、二人でカラオケへ行くことになった。
話を聞いてみると、一条くんは学業優先なので部活はやっていない、だから放課後は基本空いているらしい。
今日は勉強の息抜きだ!と言っていた。
放課後校門前で待ち合わせ予定だ。
私は掃除係が楽な玄関なので早く終わり、校門前で待っていた。
すると10分ほど遅れた後に一条くんがやってきた。
すると一条くんは
「今日のトイレこの世の終わりのような汚さだったわ!まじ終わってる!これでも頑張った方なのに、汚いからってやり直しさせられた!」
と愚痴を吐いていた。
トイレ掃除はハズレな係だ。
一条くんは今日は災難だったみたいだ。
カラオケ屋さんは学校から、15分くらい歩いたところにある。
すると一条くんが
「カラオケの前にコンビニで買って、こっそり持ち込みしよう」
と悪い顔で言ってきた。
私はそれに賛同し、首を縦に振る。
この人は表情が沢山あって、カメレオンみたいだと思った。
近くにセブンイレブンがあった。
コンビニでコーラ、ポテチ、チョコなどを買ってカバンに詰めたらバックが二人とも一杯になった。
店員さんは勉強道具でパンパンだと、思ってくれることを願う。
カラオケ屋さんにつく。
すぐに店員さんが出てきて。
「何名様ですか?」
そう聞かれたので一条くんが答える。
「2名です。2時間でお願いします!ドリンクはいりません!」
店員さんは一瞬びっくりしたような顔をした後、パンパンのバックをじっと眺めていたが、何も言わなかった。
そして私たちは無事に、お菓子とジュースを持ち込むのに成功した。
私たちの部屋は3番みたいだ。
通路を歩いてると
「持ち込み作戦大成功!」
と一条くんが悪い笑みを浮かべた。
扉をあけて中に入ると中はそとの気温と違い冷房が効いていて涼しかった。
部屋に入るとすぐに一条くんはタブレットを操作し曲を入れた。
「では俺の十八番歌いまーす!」
一条くんが大きな声で宣言した後、部屋を暗くし、あーあーとマイクをテストしている。
少しの静寂の後イントロが流れた
この曲はTWO OK ROCK のMis Youだと少し聞いてわかった。
イントロが少し長めの曲だ。
歌が始まると一条くんは最初から全力で熱唱していた
一条くんの歌は正直言うと上手くない、だけど私の心を踊らせる、力強くまっすぐな歌声だ。
私はずっと手を叩いて曲に乗っていた。
一曲目が終わった。
一条くんはふぅと少し疲れた表情をしながらコーラー開けて一口飲んだ。
そしてキメ顔で
「次は福山英孝のモノマネしまーす」
と本人そっくりな太く低い声で言った。