「なんだ、ちゃんと俺を意識してるじゃ無いか」


久しぶりに見るような俺様的不遜な顔と声に、思わず眉間に皺が寄る。
申し訳ないかなって思っただけなのに、そう取るなんてやはり変わっていなかった。


「不服そうだな。ただ相手を愛したと気付く点なんてそれぞれで、自覚することが勇気がいる場合なんて必死に自分を守るために気付かないようにしようとしたりする。

俺だってまさか女子高生に本気になるなんて思わなかったから、きっと面白いからだろうとか、気まぐれだとか思っていたくらいだ。
それだけ自分に向き合うって結構勇気がいる。

お前は、どこで引っかかってるんだろうな」


腕を組まれたままでニヤリと笑われ、私の中の苛立ちが久しぶりに沸き上がる。

惚れているのに自覚できない臆病者め、と言っているのだろうが、そうは簡単に納得するものか。


「どこも引っかかってないです。
ほら、イルカショーの時間ですよ、行きますよおじいちゃん」

「誰がおじいちゃんだ!」


何だか懐かしいやりとりをしているなと思いつつチラリと隣に座る光生さんを見れば、初めての体験なのか目を輝かせてショーを見ている。

こういう場所に子供の頃は一度も来たことが無いのは事情があるのだろうが、大人になってデートの選択肢に水族館が無かったと言うことだから、金持ちは一体どんなデートをするのだろうかとむしろ不思議に思ってしまった。