「知ってるか?水族館の数は世界の国々で日本がトップなんて言われている。
残念ながらそれを裏付けるはっきりとした資料は無いが、それでもこんな小さな島国に数多くの水族館があるから、日本人なら水族館に行った思い出の一つや二つあるのが普通なんだろうな」


その声も顔も別に暗さは無い。
単に事実を述べているだけというくらい冷めていて余計に私には悲しく感じた。


「日本は海に囲まれてますからね。
しかし私が光生さんと水族館行った第一号になるとは。
仕事と無関係の私と来てるんです、今日くらい仕事目線を無くせとは言いませんが、減らして楽しみましょうよ」


私が笑いかけると何故か驚いた顔をされ、


「そうだな」


そう言って屈託の無い笑みを浮かべた。

可愛い。
自分よりはるか年上なのに何だか可愛い。

身長差がここまで無ければ頭を撫でたい。
妙なほど庇護欲をそそるようなその笑みに、私は今日を彼にとって楽しい思い出にして欲しいと言う気持ちを強くした。


薄暗い館内、そこに青い世界が広がる。
トンネル水槽と名の付く有名な場所はまるで深海にいるようだ。
カラフルな魚に大きな亀も悠々と泳いで、カップルや家族連れが立ち止まり写真撮影で賑わっている。

私もここは目当ての一つだったので立ち止まり周囲を見渡せばすぐ隣に光生さんが立っていて、彼も見上げていたが手を伸ばしそっとその水槽を長い指で触る。