「なぁに、思い当たることあった?」


すぐに気付いた桃が楽しげな声で聞いてくる。


「触りたいと思った事は無いし、ドキドキもゼロとは言わないけれどむしろイライラしてばっかり。
でもモヤモヤとした気持ちにはなったような気がしたなって」

「女性の影がチラついたんだ」


的確に言われて仕方なく頷く。
桃は私を見て呆れたようにため息をついた。


「紫央里は恋とか愛が何でわかるか悩んでるけど、そもそも彼のことで頭一杯じゃ無い。
それは既に、その人に恋してるって事だと思うけどな」


その言葉に私が困惑した。


「さっき桃が教えてくれた判断材料とは違うのでは」

「こういうことに答えって無いの!
わかんないなら、わかりたいからまずは交際したい、とかにすれば良いじゃ無い」


驚きの提案に思わず口が開く。
だけど桃は至って平然としていた。


「私の話聞いてた?
向こうから交際申し込まれるとき、あまり相手を知らない場合だってある。
だから、知るための交際で良い?って最初に言ってるんだ。
良いって言ったくせに、それで何でもオーケーだと勘違いして喧嘩別れした相手もいたし、ドキドキしてしまう相手だったこともある。

だから告白は全て向こうからだけど、別れるときは私が振られたことだってあるよ」


笑顔で言う桃が、私には眩しかった。
いつも桃が羨ましいと思っていた。
私には無い女の子としての可愛さ、そしてぶれない心の強さ。
しかし私にはわからない悲しみだってそれなりにあったはずだ。それでも良いところを見つけに行こうと交際する桃のスタンスは、私には刺激的でそして格好よく思えた。


「桃って可愛いと思ってたけど、結構格好いいね」


私の言葉に桃は驚いた顔をして笑い出した。


「紫央里は自分をいつも地味だの言ってるけれど、そんな年上御曹司が女子高生相手に必死になってるんだよ?凄くない?
お試しなら付き合ってあげるとでも言えば?」

「い、いや、そんな訳には」

「まずはさ、恋人になってから考えても良いんじゃ無い?
その人も紫央里の真面目さを知ってるのなら応じてくれるよ、きっと」


そんな事を言ってくれたけれど、私には明確な恋の指標がわからなくてまた悩むしか無かった。