ハートの女王が王の首を刎ねた――。
アリスの元に突然の訃報が届いたのは、よく晴れた午後のティータイムだった。
アリスが、今日の役“お姉さんに本を読んであげる妹”を家の近くの木の根元で演じていると、向こうから懐中時計を持ったウサギ……ではなくて、顔だけ宙に浮かんだ不気味な猫がフワフワと点滅を繰り返して漂ってきた。
『大変だよ、大変だよ』
――「どの辺が大変なのかさっぱりだったわ」とボクの前を行くアリスは大仰に肩をすくめてみせた。
確かにチェシャ猫のニヤニヤ笑いでは大変そうにはとても見えそうになかっただろうけど、実際に一大事だって事は、アリスにもすぐに理解できた。
チェシャ猫の今日の役はウサギの穴から入った不思議の国の案内人。今日はこちら側には出てこない“シナリオ”の筈だったからだ。
驚くアリスに猫はこう言った、
『赤の女王が王様の首をちょんぎっちゃったよ』
『見に行く!』
チェシャ猫がこの場所に現れた時点で劇は中断だ。アリスはニヤニヤ笑いを続ける猫頭をガッチリ抱えると、姉さんを残して、いつものウサギ穴に風のように走り出した。
不思議の国でも最近空が翳り、ここ数日は不自然に雨の降らない黒雲が空を覆い尽くし、住人たちが不安と疑念を抱えていたのだ。
加えて今回の斬首事件。物語の進行が早すぎるし、第一、今日のシナリオにそんな展開は無いのだ。
確かに王は今日、アリスと巨大チェスで勝負するシナリオだったのだから。
――「何かが起きてるのは確か。その理由も原因も行けば分かる気がしたからね」
何故だか今日のストーリーライター――アリスの、文字世界の支配者――のシナリオには、有無を言わせず従わせる強制力、束縛力が無いようだった……とアリスは振り返る。
迷わず彼女は今日の持ち場と役を放棄し、まだ行く予定の時間ではないウサギの穴の中へと、躊躇い無くダイブした。
アリスの元に突然の訃報が届いたのは、よく晴れた午後のティータイムだった。
アリスが、今日の役“お姉さんに本を読んであげる妹”を家の近くの木の根元で演じていると、向こうから懐中時計を持ったウサギ……ではなくて、顔だけ宙に浮かんだ不気味な猫がフワフワと点滅を繰り返して漂ってきた。
『大変だよ、大変だよ』
――「どの辺が大変なのかさっぱりだったわ」とボクの前を行くアリスは大仰に肩をすくめてみせた。
確かにチェシャ猫のニヤニヤ笑いでは大変そうにはとても見えそうになかっただろうけど、実際に一大事だって事は、アリスにもすぐに理解できた。
チェシャ猫の今日の役はウサギの穴から入った不思議の国の案内人。今日はこちら側には出てこない“シナリオ”の筈だったからだ。
驚くアリスに猫はこう言った、
『赤の女王が王様の首をちょんぎっちゃったよ』
『見に行く!』
チェシャ猫がこの場所に現れた時点で劇は中断だ。アリスはニヤニヤ笑いを続ける猫頭をガッチリ抱えると、姉さんを残して、いつものウサギ穴に風のように走り出した。
不思議の国でも最近空が翳り、ここ数日は不自然に雨の降らない黒雲が空を覆い尽くし、住人たちが不安と疑念を抱えていたのだ。
加えて今回の斬首事件。物語の進行が早すぎるし、第一、今日のシナリオにそんな展開は無いのだ。
確かに王は今日、アリスと巨大チェスで勝負するシナリオだったのだから。
――「何かが起きてるのは確か。その理由も原因も行けば分かる気がしたからね」
何故だか今日のストーリーライター――アリスの、文字世界の支配者――のシナリオには、有無を言わせず従わせる強制力、束縛力が無いようだった……とアリスは振り返る。
迷わず彼女は今日の持ち場と役を放棄し、まだ行く予定の時間ではないウサギの穴の中へと、躊躇い無くダイブした。