「本っていうのは、いわばストーリーライターの日記帳であり、アリスやピーターのような役者の仕事ぶりを記録する媒体だ。勿論、ベストセラーと呼ばれる事になるシナリオを引き当てる作家は、それなりに色々なジャンルの知識があって、シナリオを捕まえる網もデカい。ただ……作家の突然の閃きなんてものは――思い違いだ。彼らはただの劇の記録員なんだから」
 どこまでも冷静に、どこまでも冷淡に、藍は作家という職業を切り捨てた。
 ボクはあまり本を読む人間じゃないので、何か言いたくても何を言ったらいいのか言葉が出てこなくて、結局押し黙っていることしかできなかった。
 確かにボクはバカで好奇心ばっかり強くておっちょこちょいだけど――分かっているけど――作家が血反吐を吐く思いで紡ぎ出した筈の物語が、ただの記録だなんて言う藍に反論できない自分が、今だけは嫌だった。
「ほらほら、そんな冷たい言い方するから泣いちゃいそうじゃない」
 隣に座っていたアリスが温かい両腕でボクを包み込む。
 ボクは泣き虫でもあったようだ。
 その言葉を聞いた藍は、初めて悲しそうな感情を現してボクを見た。
「悪い」
 そう言って、苦虫を噛み潰したような顔に変わる。
「ただ……知っておいて欲しい。この世界の“神”、ストーリーライターはこの世界とその住人を生み出し、全ての森羅万象を自在に操り、果てはお前の世界に綴られるフィクションも全て把握している絶対の存在だってな」
 アリスを見ると、静かにこちらを見返して頷く。
「だから、その神に作られ、踊らされるアリスやピーターには、お前の世界で本――シナリオを読んでくれた奴、そいつら全てに関する記憶が残される」