「で? なんで……なんでボクはこんな事に巻き込まれてんの!?」
 怒号と轟音がとめどなく響くパーティー会場。そこでボクは、誰にともなく疑問を叫んでいた。
 縦半分に裂き、それをそのまま横にした分厚い丸太テーブルの影に隠れて、反対側の様子をちらっと窺うと、砲弾、銃弾に混じって皿やらポットやら、挙げ句の果てにはケーキまでが雨あられと宙を舞っているのが見える。
「げっ!」
 慌てて引っ込めた頭があった場所を、果物ナイフが通過して背後の生け垣に突き刺さり、ボクは青くなった。
「危な……」
「くそっ! 船長め……」
 声の方を向けば、ピーターが苦笑いでテーブルの向こうを窺っていた。
 彼、青年ピーター・パンは、アリスとはまた違い、絵本で見るような上から下まで緑の服を着ていた。……先程までは。

「シオン! なんだよ、最近は僕の本を読んでくれないじゃないか!」
 アリスに連れられて来たボクの姿を見つけるなり、ピーターは顔をほころばせて喜んだ。
(やっぱりボクを知ってる……)
 そんな事を思っていると、ピーターはそれまで着ていた服をおもむろに脱ぎ捨て始めた。
「何をやって――!?」
「いや、せっかくの日本人だからさ、僕も合わせようかと」

 それで今に至る。
 頭には緑の手拭い。薄い春色のパーカーの上に羽織っているのは、なぜか緑の縦縞の浴衣で、足元も草履だ。一体どこで和風を履き違えたのだろうか。
 しかしその格好で、身軽に投擲物の雨の中を駆け抜けているあたり、彼もやはりただ者ではなさそうだ。
「ボケッとしないで! 上!」
 反射的に上を見たボクらの数メートル上空で、爆音と共に黒い塊が爆発し、熱い風がボクの髪を荒く撫でながら吹き荒れた。
 ザザッと土埃を巻き上げて滑り込んだ来たのは、藍とアリス。
 手ぶらの藍とは違い、白煙の上がっている二丁拳銃を見る限り、さっきのを撃ち落としたのはアリスらしい。
「会話は後にして! 退くわよ」
 言いながら肩の巨砲をテーブルから突き出し、無造作に引き金を引く。
 腹の奥に響く重低音と同時に、ダッシュでその場を離れる3人とアリスに手を引かれながら、引きずられるように逃げるボク。
 後ろに向けた視線の先で、テーブルが木っ端微塵に吹き飛んだ。