言い訳と言われればそれまでだが、本当に将也を傷つけるつもりはなかったのだ。


だからこれは事故だった。


将也の手を振り払おうと思いっきり動かしたら、刃先が彼の頸動脈を切り裂いた。


晃の顔にまで飛び散った血を拭いながら慌てふためいた。


「兄貴……血が……」


「お前は優しすぎる……きっと俺を()れって言われてたんだろ?なのにお前はそうしなかった……お前は優しいから、若頭とか組長には向いてない……そう言いたかった」


将也は膝を付いて倒れ込む。


首を押さえてはいたが、傷口からはとめどなく血が流れ続けていて、もうどうしようもなかった。


「旭……を……」


それが将也の最期最後の言葉だった。


救急車を呼ぼうとスマホを取り出した時、頭の中で聞こえた悪魔の囁きによって晃はその手を止めた。


——もうこの出血量では助からない。


そうなれば、誰か〝犯人〟が必要になる。


晃はハンカチで将也のズボンから彼のスマホを取り出し、旭に位置情報を送って早々にビルを後にした。