「なんか真紘の顔ちゃんと見るの久しぶりな気がする」


旭はゆっくり体を離しながら言った。


こうして2人がちゃんと顔を合わせて会話をするのは、杏奈の件で気まずくなってから以来だった。


「それは旭が全然家に帰って来なかったからでしょ!?この不良!!!」


ヤクザの自分に〝不良〟というのがあまりにチグハグすぎて旭は思わず笑ってしまった。


反省する様子がない彼に真紘は呆れながらずっと気になっていたことを聞いた。


「……そういえば、杏奈ちゃんの件はどうなったの?」


「妹と一緒にあの家は出て、新しいクラブで働きながらキャスト用のアパートを契約して2人で住んでるよ。もう大丈夫」


父親がどうなったのかは言わなかった。


だから、真紘もあえて聞かないことにした。


世の中知らない方がいいこともたくさんあるだろう。


「そっか……本当に良かった……」


せっかく〝良かったね〟という話で落ち着くはずだったのに、この後旭は再び真紘を怒らせることになる。


「そうだ、俺杏奈に一瞬キスされたんだけどさ、」


「はい……?」


いつ?どこで?どういうシチュエーション?
真紘の頭にはたくさんのクエスチョンが浮かんだ。


しかし何よりも、一番は……


「だから言ったじゃん!!彼女旭のこと好きだよねって!!」


「はっ、はい……スミマセン」


真紘はすごい剣幕で旭を圧倒した。


しかし所詮2人は付き合っているわけでもないただの同居人。


それは真紘も分かっていた。


「まあ別に、旭がどこで誰と何しようと、ただの元カノの私が口出す権利はないけどね」


少し投げやりに言って真紘は顔を逸らした。


「口出していいよ。嫉妬とか大歓迎。ずっと俺のことだけ考えててほしい」


旭は彼女の髪をひと束(すく)いながら言った。


「考えてるよ!私が旭のことばっかりなの分かってるくせに……」


ただ片想いさせてくれればそれで良いのに。


旭からの見返りは求めないと決めたのに。


そんなことを言われたら、期待しちゃうじゃん——。