話すくらいならいいかと思って会話にノッたら思いの外盛り上がり、気づいたら真紘は肩を抱かれてバーを出ていた。


少しキケンな雰囲気が漂っているのに、話してみると全然まともなそのギャップが良かった。


アルコールでだいぶ鈍った頭でも、このままホテルの部屋に行く流れなのは分かる。


どうやってこの状況を切り抜けるか必死に考えを巡らせていると、彼は道路脇でタクシーを止めた。


まさかここで健全に解散の流れになるなんて、偉そうながら彼のことを見直してしまった。


「どう?見直した?」


真紘は心の中を読まれたのかと思って反射的に首を横に振った。


「俺、本気で落としたい女はじっくり攻める派だから」


真紘は本気で落としたい女枠に選ばれたらしい。


決して悪い気はしなかった。  


最後に「こう見えて童貞だからさ」と耳元で囁かれ、真紘はタクシーの中に入れられた。


「彼女の家まで」と言って扉が閉まる。


真紘はクレジットカードと一緒に渡された名刺の裏に目を通す。


そこには〝カード返しにきて〟というメッセージと共に、日時とレストランが書かれていた。


「フフッ……絶対童貞じゃないじゃん……」


真紘は彼とのやりとりで思い出し笑いをしながらボソッと呟いた。


まさかこれが全て仕組まれた出会いだったなんて、この時に気づけるはずもなかった——。