あの日から、旭は何かと理由を並べて、あまり家には帰ってこなくなった。


気まずいのはお互い様で、真紘も今は少し距離を置いて自分の頭を冷やしたかった。


——気分転換に外でお酒でも飲もう。


今までは必ずどこかから旭や亮太が護衛してくれていたから、こうして完全に1人でどこかへ行くのは久しぶりだった。


せっかくならお酒だけでなく雰囲気にも酔える所にしようと、港区で摩天楼のような存在感を放つとあるホテルのバーを選んだ。


レインボーブリッジや東京の夜景が一望できるのだ。


真紘以外のほとんどが男女の連れ合いだった。


夫婦や恋人もいれば、訳アリそうなカップルもたくさんいる。


真紘がグラスを傾けながら、頭の中でカップルの関係性を当てる遊びをしていると、バーテンダーがショートグラスに入った白いカクテルを出してきた。


「お客様、あちらの方からです」


あちらを見ると、端の方に真紘と同じおひとり様の男性が座っていた。


年齢はかなり近そうだ。


こんなのはドラマでしか見たことがなくて、実際に自分が体験することになるとは思わなかった。


さすがは港区……と感心する。
 

「これ、なんていうカクテルなんですか?」


「こちらはXYZという、ラムベースのショートカクテルになります。レモンジュース、コアントローを足して柑橘系の爽やかさが楽しめます。〝これ以上のものはない究極のカクテル〟なんて言われているんですよ」


バーテンダーは続けて「口説く時に使われることも多いです」と小声で言い足した。


これを受け取ってしまえば、少なからずその気があるという意思表示になってしまうが、突っぱねることもできそうにない。


真紘はグラスを見つめながらどうするのが正解なんだろうと頭を悩ませていた。


「俺が毒味しようか?」


突然横から声が聞こえたかと思ったら、さっきまで端にいたXYZの彼が隣に座っていた。


こういう状況に慣れていない真紘をからかっての言葉なのかもしれないが、さすがナンパをするだけあって言葉の選び方が独特だ。