お台場の方まで車を走らせ、旭と杏奈は夜景が一望できる所までやって来た。


海沿いの風は夜になると結構冷たく、旭は薄着の杏奈に自分のジャケットをかけてやった。


「……火傷の痕、親父さんの仕業だろ?」


柵に寄りかかってしばらく眺めを見ながら旭が聞いた。


「違うの!お父さんお酒入るとちょっと加減ができなくなるだけで……」 


「加減云々(うんぬん)の問題じゃない。お前の親父がやってることは立派な犯罪行為だ。それは愛でもなんでもないからな」


最低な父親とはいえ、杏奈にとってはたった1人の保護者だ。


それを犯罪者呼ばわりされるのは酷なことかもしれないが、誰かが断ち切ってやらないと、きっとこの子はいつまでも逃れられない。


杏奈も諦めたのか、ぽつりぽつりと喋り始めた。


「……お父さんね、妹の服脱がそうとしてたの……まだ15歳だよ?それは絶対にさせられない。あの子には私みたいになってほしくないから……」


杏奈自身はその頃から知らない大人に数えきれないほど抱かれ、自分を犠牲にしてきたことを旭は知っている。


妹に同じような思いをさせたくないという姉心なのだと思うといたたまれなかった。


「私なら、ほら……お客さんだと思えば、仕事だと思えばやることは何も変わらないし……」


旭はようやく胸の内を表出してくれた杏奈を抱き寄せた。


旭の腕の中で涙を流す彼女を見て、もう10年近く会っていない自分の妹を思い出した。


「旭さん、私のこと嫌いにならないで……」


「嫌いになんかならないよ。俺はいつでも杏奈の味方だから」


旭の背中に手を回して抱きしめ返す彼女の頭を安心させるように撫でる。


「杏奈はこれからどうしたい?俺はそれが叶うように動くよ」


「私は———」


旭は彼女の優しい願いを確かに聞き入れた。