大人たちがいる部屋へ戻り、真紘が状態を報告しても誰も驚かなかった。


「やっぱりな……杏奈のことずっと可愛がってくれてる客から教えてもらって分かったんですよ。根性焼きみたいな痕があるけど、誰か客にやられてんじゃねえかって。それも、胸とか脚の付け根とか、服脱がねぇと付けらんねぇとこにあったらしくて。でもウチは客の質が良いのだけは自慢だし、その可能性は低いだろうと思って本人に聞いたんです」


その後は真紘がさっき話した時と同じだった。


お客さんにされたのか尋ねると否定をするのに、友達なのか、彼氏なのかと聞くとだんまりするらしい。


「……父親だな」


真紘はそう断言した旭をギョッとした顔で見てしまった。


父親が我が子の体を傷つけている。


それも、あの位置に傷痕があるということは、わいせつ行為をはたらいている可能性が高いという話だ。


性的虐待……


さっき真紘が話したなんの罪もない子は、ニュースでしか聞いたことのなかった蛮行によって傷つけられている——。


真紘は会ったことのないその父親にどうしようもない憤りを感じた。


それくらい、許し難い行為だった。


問題は真相をどうやって聞き出すか、だ。


誰にされているのか正確に把握できない限り、介入のしようがない。


「話してくれるかはわかんねぇけど、俺が話聞いてみるわ。タケウチさんでダメなら、俺しかいないだろうし」


旭が椅子から立ち上がった。


どうしてここで旭が名乗りを上げるのか真紘には分からなかったが、どうやら話はまとまったらしい。


先生、旭、タケウチ、真紘の順で隣の部屋に移動すると、杏奈は旭にだけ反応した。


「旭さんッ!」


それは兄を慕う妹のようでもあり、恋する女子の顔にも見えた。


「ちょっと会わない間に随分大人っぽくなったじゃねーか」


旭が頭を撫でると彼女は嬉し恥ずかしそうに「そうかな?」と笑った。


真紘は2人のこの訳アリな空気感の正体が気になって仕方がなかった。


旭が続けて杏奈をドライブに誘うと、「でも仕事が……」と彼女はオーナーの様子を伺う。


「杏奈は働きすぎなんだから、たまには息抜きしてこい!」


こうして大人たちに背中を押され、彼女は旭と夜のドライブに出かけて行った。