真紘が綾人と別れてから、この同居生活終了に関する話は白紙に戻った。


行くアテもない真紘を国外に行かせるのは酷な話で、そうかと言って前の家に戻すのも、都内で新しい家を探してもらうのも旭としては心配だった。


だからひとまず今まで通り真紘はセーフハウスで暮らし、旭と亮太が引き続きそばで見守っている。


でも真紘と亮太がもし恋人関係にあるのなら、旭はもう身を引いた方がいいのだろうかと思っていた。


「もう交代制にするのやめるか?」


(あきら)から厄介な案件に巻き込まれ、しばらく真紘のことを亮太1人に任せることになったある日。


真紘がリビングを離れているのを確認して、とうとう旭はそのことについて亮太に言及した。


「急にどうしたんすか?」


「お前、真紘と、その……そういうことなんだろ?」


イマイチはっきりと言わない旭に、亮太はニヤケそうになるのを必死で堪えた。


旭は2人の関係を認めたくないからこんな言い方をするのだ。


つまり、真紘を他の男には取られたくないというのが彼の本音だ。


旭があまりに予想通りの反応をするものだから、ニヤけずにはいられない。


「え、真紘さんのことッスか?あーはいはい!セックス、しましたよ!」


亮太はあっけらかんと答えた。


テーマは軽薄なクズ男。


俳優の才能があるのではないかと自画自賛してしまうほど、最高の演技だと思った。
 

「……付き合ってんだろ?」


「もしかして真紘さんがそう言ったんですか?ヤダなぁ、俺そんなことひと言も言ってないのに」


その言葉に旭がイラっとしたのが伝わってきた。


「……真紘をお前の性欲処理に使うのだけはやめろ」


冷静を装っていても、声は怒りをはらんでいて、ピリついた空気が漂う。


「え〜?自分だってキスしたらしいじゃないっすか。それに真紘さんのこと好きなくせに、ヤクザを言い訳にシャットアウトしようとしてるアニキに、そんなこと言われる筋合いないんですけど」


亮太はとうとう核心に触れて旭を挑発した。


旭はクールに見えて、実は情に厚いところがある。


こんな安っぽい挑発でも、つれる可能性は十分にあった。


「自分が惚れてる女をこんな世界に巻き込めるわけねぇだろ!」


旭は声を張り上げた。


思っていたよりも落ち着いてはいたが、案の定上手くつられてくれた。


リビングを出て行ったフリをして廊下で待っているように言われていた真紘は、2人のやり取りが聞こえて来て手で口を押さえた。


旭の言葉に驚いたのと、それ以上に、亮太の作戦通りに事が進んでいるのが信じられなかった。


「ですって!真紘さーん!」


「はあぁっ!?」


亮太の呼びかけと、旭の仰天した叫び声を受けて真紘はそーっと顔を出した。


すると亮太は「じゃ、俺はこれで」と言って早々に出て行ってしまった。