いくら待っても一向に痛みが訪れない。


もしかすると瞬殺されたのかと思い、目を細めながら瞼をゆっくり上げていく。


きっと真っ白な世界が目に映るのがお決まりだろう。


おそるおそる目を開けると、そこには知らないスーツの男性の後ろ姿があった。


真紘を殴ろうとしていた男は遠くに吹っ飛ばされている。


どうやらこの男性が助けてくれたようだった。


そのヒーローはチラッと後ろを向いて「おねーサンこんなとこいるもんじゃねぇよ。さっさと行きな」と声をかけた。


ほんの一瞬だったけれど、真紘は彼の顔を見逃さなかったし、何よりもその〝声〟を聞いて全てのピースが埋まった気がした。


「あ……さ、ひ？」


その男はビクッと反応したが、真紘の方を向くことはなく、ただ「ほら、早く行け」とだけ言った。


まるで頭の中に直接話しかけられたようにその言葉がすっと自分の中に入ってきて、従わなければという気持ちにさせられた。


「……早く病院に連れて行ってあげてね」と言い残して、私はその場を立ち去った。