旭が事件の犯人でないことは始めから分かっていた。


日本の警察はそこまでバカじゃない。


しかし、組の人間に事情聴取をした時に、一部がしきりに旭を犯人にしたがっているような供述をしていたのだ。


だから警察はそれを逆手に取ることにした。


警察はあたかも旭をずっと怪しんでいると思わせて、秘密裏に組内部の捜査を進めていたのだ。


でもそこには旭への嫉妬の気持ちも確かにあった。


特に真紘と旭が再会してから、綾人は内心いつもどこか焦っていた。


だからあの日、張り込みで撮った旭と真紘の写真をわざわざ彼女に見せ、旭が事件の真犯人だという言い方をした。


あわよくば旭への想いが薄まってほしかったが、むしろそれは逆効果だったようで。


2人は高校卒業以来会っていなかったはずなのに、離れていた時間を感じさせない強い絆で結ばれていた。


「元恋人が殺人犯だと言われても、そんなはずないってハッキリ言えるのはなかなかできることじゃないよ。もうあの時既に俺はアイツに敵わないって悟ってた。カウントダウンが始まってることも気づいてた。それでもやっぱり、ギリギリまで真紘のそばにいたかったんだ……」


まるで子供に絵本を読み聞かせるような落ち着いた綾人の声に、真紘は涙を堪えきれなかった。


綾人と過ごした日々は穏やかで、彼のことも、一つ一つの思い出も、こんなに愛おしく感じるのに。


それでも真紘にとって、旭はそれ以上の存在なのだ。