「大丈夫ですか?聞こえますか?」


肩をトントンと叩きながら声をかけると「んっ」と、かろうじて反応はあったが目は開かず、会話も成立しなかった。


声をかけていると再び周りがざわめき出す。


「やめておけ」だとか「戻ってこい」という心配の声から、「変な奴」などと誹謗する声もあった。


倒れている人を助けるのは当たり前のことだろう!と叫んでやりたかったが、ここにきてようやく自分の今の状況を思い出した。


真紘は今、ヤクザ同士の喧嘩に割り込んだ形になっている。


目の前には2本の脚が見えていた。


「おい、何しゃしゃりでてきてんだよクソアマがぁ!」


頭の上から怒号が降り注ぎ、恐る恐る顔を上げるとすごい勢いで拳がふりかざされていた。


殴られるんだと確信した瞬間、ぎゅっと目を閉じて衝撃に備える。


そして心の中で神に願う。


どうか助けてください、と。


そして最後に一瞬脳裏に浮かんだのは、家族でも友達でも婚約者でもなく、旭の顔だった。