「アイツのこと、気になる?」


綾人は、さっきからどこか落ち着かない様子で周りをチラチラ確認しながら隣を歩く真紘に尋ねた。


「そりゃ気になるよ……だって、デートを誰かに見られてるってなんか恥ずかしくない!?」


綾人は思わずぽかんとしてしまった。


てっきり『そんなことないよ』と否定されると思っていたから。


もし否定されたりはぐらかされたりしていたら、自分といるところをあまり旭に見られたくないんだろうなと勝手に色々勘ぐって落ち込んだかもしれない。


真紘のためとはいえ、彼女が元恋人の旭と一つ屋根の下で暮らしているというのは、綾人にとってやはり複雑だった。


2人は気持ちが冷めて別れたわけではなかったから、この再会があの頃を思い出させてまた火がついても何らおかしくないと思っている。


だって恋とはそういうものだから。


自分は至って平気、何も気にしていないぞと、そんなフリをしていただけで、綾人だって気が気じゃなかった。


だからさっきの真紘の反応は、綾人の不安を払拭するには十分だった。


「そんなことより、今日の式場すごく雰囲気良かったよね?」


「俺もいいなって思った!真紘がドレス着て歩いてるとこ早く見たい」


「そうだよドレス!それに引き出物とか席順とか……決めなきゃいけないことが山積みだね」


「そうだね。でもまぁ、俺たちのペースでゆっくりやればいいよ」


綾人は繋いでいた真紘の手の甲にそっと口付けた。


「今日このまま(うち)来る……?」


「行きたいのはやまやまなんだけど、勉強会の資料作んなきゃいけないんだよね……」


「そっか……じゃあしばらくおあずけだな」


2人がセーフハウスの門の前まで来たところで空からポツポツと雨が降り始めて、一旦屋根のある玄関口まで避難した。


「少し雨宿りして行かない?それか私の傘持って行って?」


「いや、駅まですぐだしパッと帰るよ」


「風邪ひかないように気をつけてね。旭も傘持ってないけど大丈夫かな……?」


おそらく旭ももう家の近くにいるはずだったが、一向に姿が見えない。


真紘は連絡してみようかとスマホを取り出す。


発信ボタンを押して耳に当てたその時、綾人の唇が重なった。


別れ際にするような触れるだけのキスかと思いきや、それはどんどん深くなっていく。


真紘は力が抜けたように、耳に当てていたスマホを持つ手を下ろし、綾人の腰に両手を回した——。