幸せいっぱいのはずなのに、なぜか心がモヤモヤする。


真紘は気分を変えるために新宿のデパートに寄ることにした。


仕事で落ち込んだ時や気分が上がらない時はこうしてコスメや服を買い漁る。


社会人になって、こういう大人買いが心のバランスを保つのに有効だと知った。


***


買い物を終えて新宿駅に戻る時、いつもは早々に地下通路を通るが、今日は心地良い夜風に当たりたい気分で、地上を歩いた。


慣れない所を通ったせいか、東口に向かうだけのはずが、なぜか歌舞伎町の方まで回ってしまった。


言わずとも知れた、日本を代表する夜の街。


品定めするように見てくる外国人や、とにかくヤバそうな雰囲気の人。


少しドキドキしながら足速に通り過ぎようとした時、一番街を入ってすぐの所が騒ついていた。


よく映画やドラマでヤクザ同士が争っているシーンがあるけど、それが今まさに目の前で起こっていた。


数名ずつのグループ同士で、傍から見ると片方が一方的にキレている印象だ。


絡まれているグループの1人が殴られ、地面に吹っ飛ばされた。


人は殴られるとあんな風に飛ぶものなのか。


まるで少年漫画のようだった。



「「きゃーっ!!」」


真紘と同じように近くを通りがかった人たちから悲鳴が上がる。


その声を聞いて逃げる人と、面白半分に群がってくる人とでその場は混乱した。


そんなことよりも、さっき殴られた人が起き上がらないことが気がかりだった。


地面に頭を強打した可能性がある。だとすると、ことは一刻を争う。


医療職者の端くれとして、気づいたら真紘は駆け寄っていた。