「……今日ので俺がどれだけヤバいやつかわかったろ?」


最後に真紘が包帯を巻く間、旭が自嘲(じちょう)するように言った。


「旭がどんな世界で生きて来たのか目の当たりにして、ちょっと怖かったのは本音。でも旭は意味もなく人を傷つける人じゃないって分かってるから、同じヤクザでも《《あの人たち》》とは違うよ」


「ハハッ。それは俺のこと買いかぶりすぎ。贔屓(ひいき)だろ」


「そうかもね……でも、例えば何か事件が起きた時、犯人が全く知らない人なら『あぁそうなんだ』ってその人がやったということに疑問すらもたない。でもそれがもしよく知ってる自分の大切な人なら、『そんなことするはずない』ってまず疑うでしょ?大切な人のことは信じたいし、少しくらい甘くなっちゃう。人ってそういうものだよ、きっと」


真紘にとって旭が後者の存在だった。


ただそれだけのことだ。


彼はそれ以上何も言わなかった。


「はい、終わり。でも少しでもおかしいと思ったら、絶対に先生の所に行ってね」


旭は「ありがとう」と言った後、真紘の顔に手を伸ばしその頬に手を添えた。


2、3度親指で頬骨をなぞられて、またゆっくりと離れていく。


「……血、ついてた」


「あっ、ありがとう……」


真紘は言葉を発してから、それまで無意識に息を止めていたことに気が付いた。


自分の脳は一体何を勘違いしてしまったのか、さっきから心臓の音が鳴り止まない——。