「下田組と派手にやりあったらしいな。一体どういう了見だ?」


若頭代行である(あきら)に呼ばれた旭は、本家の組長の部屋にいた。


目の前には組長の杉本(すぎもと)克典(かつのり)が腕を組んで椅子に座っている。


「……親父のこと言いたい放題言われてついカッとなりました。すんません」


「ハッ。よくもそんな見え透いた嘘がつけたもんだな」


同席していた晃が横からヤジを入れる。


「親父、すいませんでした。俺がここでちゃんとケジメをつけさせます」


旭は若頭代行である晃の補佐であり、つまり彼が何か不祥事を起こせばその責任は晃にも及ぶ。


なんとしても若頭の座が欲しい晃は、組長である自分の父親にアピールしたくて必死なのだ。


「……まぁ今回はいいだろう。だが2度目はないぞ」


組長は閉じた目を片方だけ開いて旭を睨んだ。


晃は不満気に舌打ちし、旭は無言で深々と頭を下げた。


旭と一緒に部屋を出た晃は、旭の手首を掴み彼を縁側から庭に突き落とした後、取り出したナイフで旭の手の平をグサリと地面に突き刺した。


しかし旭は声を上げるどころか、顔色も変えない。


「命拾いしたな。補佐なら補佐らしくしてろ。俺の足を引っ張るようなマネはすんじゃねぇ」


思いっきり突き刺されたせいか、飛沫がスーツに飛び散ってしまった。


これから真紘を迎えに行くというのに、余計な傷も増やされ旭は大迷惑だった。


内心そんなことを思いながら、ここは「すみません」と大人しく引き下がる。


あの事件の真相を明らかにするまでは、今のポジションを手放すわけにはいかなかった。


そのためなら喜んで晃の従順な犬になろうと決めている。