そして綾人は1枚の写真をテーブルに置く。


そこには夜のネオン街を歩く旭と真紘の姿が写っていた。


これが昨日歌舞伎町で撮られたものであることは、写っている本人ならすぐに分かる。


「驚いたよ、アイツを張ってたら真紘が隣を歩いてたんだから。コイツが姿を消してから今に至るまで何をしてきたか聞いてるよな?俺が何で織部を知ってるかって?俺がいる部署はまさに、こういう連中を相手にするとこだから」


一体なんの因果だろうか。


そう、綾人は警視庁の暴力団対策課に所属している。


それは、旭のようないわゆるヤクザを取り締まる部署だ。


真紘は頭がクラクラして、彼の声がどんどん遠くなっていく気がした。


「……でも、いくら彼が組の人間だからって、張り込みなんて……」


〝若頭代行補佐〟という旭の役職が、組の中で一体どれほどのポジションなのかは真紘にはよく分からない。


警察として組の動きを注視するのは分かる。


しかしよっぽど彼に何かない限り、わざわざ個人をマークしたりはしないんじゃないか?


例えば、彼が何かの事件の被疑者になっていたり……。


残念なことに、真紘の予想は的中していた。


「アイツは2年前の殺人事件の重要参考人だ。殺人犯なんだよ」


冷たく言い放った彼の言葉に、真紘は自分の耳を疑った。


旭が殺人事件の重要参考人?


とてもじゃないが、「へぇそうなんだ」と聞き流せる話ではなかった。


一体何をどうしたらそんな話が生まれるのだろう。


これはきっと夢だ。


そう、悪夢を見ているに違いない。そうでなければおかしい。


真紘は、そんなことあるわけがないと無言で首を横に振り続けた。