3人で他愛もない会話を続けていると、今度は車椅子を押してスタッフが入って来た。


「椎名さん、そろそろリハビリ行きましょうか!」


真紘と旭も立ち上がり、「また来るね」と伝え病室を出ようとした。


「織部」


「ん?」


真紘の後に出た旭が綾人の方を振り返る。


「……色々ありがとな」


綾人は旭にとってお礼も謝罪も伝えきれないほどの恩人だった。


その彼からお礼をされるなんておかしな話なのだ。


「いや。礼を言うのはこっちだって」


「いや。お前がいたから事件が解決できた。先輩の仇をとらせてくれてありがとう」


綾人は車椅子に座り膝に手を置いて深々と頭を下げた。


「こちらこそ。もし俺にできることがあれば何でもするから」


「あぁ……あとさ、幸せにな」


綾人はニヤニヤしながら旭のコートのポケットを指差した。


僅かではあるが、ポケットが四角く膨らんでいる。


「……さすが刑事さんだわ」


旭は参りましたと言うように両手を挙げ、気恥ずかしそうに笑って真紘が待つ方へ向かった。