仕事帰りに新宿に寄ってストレス発散の買い物を終えた真紘の元に、まるで狙ったかのようなタイミングで綾人から連絡が来た。


画面に表示された〝綾人〟の文字に、真紘は一瞬身構えてから応答ボタンを押す。


「もしもし?」


『もしもし……俺だけど』


「うん……どうしたの?」


綾人と話すのは、彼が旭の家にやって来て彼を殴ったあの日以来だった。


『どうしてるかなと思って。あー真紘!そこ段差あるから気をつけて』


「え?」


真紘が立ち止まって地面を見ると、確かにそこには段差があった。


綾人が近くにいるのだと思いきょろきょろしてみるが、夜ということもあってか見る限りそれらしき人は見当たらなかった。


『後ろだよ』


綾人はくるっと後ろを振り向いた真紘に向かって軽く手を挙げて駆け寄った。


「仕事帰り?」


「うん」


「送るよ」


「そんな、大丈夫だよ!」


「そういうわけにはいかない。この辺はアイツらのテリトリーだし」


そう、ここは新宿。


杉本組の領域故に抗争も多発する。


真紘が旭に再会したのもここ新宿・歌舞伎町で、ヤクザ同士の喧嘩に割って入ったことがきっかけだった。


真紘は素直に綾人の厚意に甘えることにして、彼の隣を歩いた。


騒がしい街の中を進んでいると、真紘と綾人の視線の先で、よく知る男2人が両脇に女性を連れて歩いているのが目に入る。


どう見てもあれは晃と旭だった。


「あ、あのさ。もし良かったらなんか食べよ!俺腹減った」


綾人は何事もなかったかのように、むしろテンションを上げて話し出し、真紘の視線を遮るように前に立った。


彼の気遣いを察した真紘は柔らかく笑って言う。


「大丈夫だよ、分かってるから。それに私の方がよっぽど旭に申し訳ないことしてるし……」


真紘が体を張ることに反対している綾人は表情を曇らせる。


「……頼むから、それ以上無茶は禁止。じゃないと、俺の心臓がもたないから」


「……いつまでも心配かけてごめんね」


真紘の手を優しく握った綾人に、真紘は力なく笑った。