旭の読み通り、真紘は昨日と同じくらいの時間にまた歌舞伎町へ足を運んでいた。


「お姉さんちょっとお話いいですかー?」

「そこのキミ、1人だよね?」


しつこいナンパや勧誘をスルーして旭の姿を探しながら一番街を彷徨(さまよ)っていると、真紘はいきなり手首を掴まれ背後から口を塞がれた状態で路地裏に引き摺り込まれた。


身の危険を感じた彼女は手足をバタつかせて抵抗する。


「はーい、もし俺じゃなかったらこれで間違いなく襲われてるぞ」


その懐かしい声にハッとして抵抗をやめる。


口を塞いでいた手が離れ、プハァッと息を吸い込んだ。


「昨日忠告したろ?何でまたここに来てんだよ」


そこには、忘れようと思っても忘れられなかった、あの頃からずっと真紘の心の中にいる彼が立っていた。


「なんでここに……?」


「もしかしたら真紘が来るかもしんねェと思って来てみたらやっぱいたし。ここは危ねぇって言ったのに、ほんと、俺じゃなかったらどうしてたんだよ」


真紘は旭に会ったら聞きたいこと、言ってやりたいことがたくさんあった。


それなのに、いざ本人を前にすると何も言葉が出てこなくて、気づいたら彼に抱きついていた。


状況把握が追いつかなかった旭は驚きのあまり、まるで警察に拳銃を向けられた犯人のように両手を挙げたまま固まった。


何も言わない真紘に旭も何を言えばいいか分からなかった。


とりあえず場所は変えた方が良さそうだ。


「……じゃあ、ちょっと話でもするか?」


旭は真紘を連れて歌舞伎町にある馴染みのバーへ向かった。