真紘は家に帰りソファで旭とくっつきながら、この一連の仮説を話した。


「なるほど……確かにそれは一理あるかもしれない。となると、母親の方を探れば何か出てくるかも……いや、息子にやらせるくらいだから期待はできないか」


「そうだね……」


もちろん旭は、晃の生い立ちや境遇に同情などしていない。


けれど真紘の表情を見れば、彼女が晃を憐れんでいるのはすぐに分かった。


「でも、直接手を下したのはアイツで間違いない。だからそれとこれとは話が別だし、それに……」


旭が真紘のVネックのトップスを少しはだけさせると、真紘の胸元にはさっき晃につけられた跡がくっきりと残っていた。


「真紘、もしかしてアイツに情移ってる?可哀想?味方でいてあげたい?」


旭はソファに押し倒した真紘を見下ろすように、顔の横に手をついて覆い被さる。


「違うよ?ただ……彼はもちろん加害者だけど、被害者でもあるのかもしれないと思っただけ……味方とかそういうんじゃないよ」


「……ごめん。分かってる」


旭はそう返事をして、真紘に口付けた。


ただ、彼が納得できていないことは、その目を見れば明らかだった。


それから、真紘と旭はお互い見えない溝を感じるようになった。


それぞれの焦りや嫉妬、罪悪感が渦巻き、2人でいると息が詰まりそうになる。


少しずつ歯車が噛み合わなくなるような、そんな感覚だった。