綾人が出て行ってから、真紘と旭はしばらく玄関に座り込んでいた。


内容があまりにも深く重いものばかりで、考えるだけでも疲れてしまう。


ヤクザと一度繋がりができてしまえば、それをなかったことにするのはほぼ不可能だ。


綾人もそれが分かっているからこそ、あんなに激昂していたのだろう。


でも方法は、なくはない。


「真紘、この間話したやつ覚えてる……?」


「旭の知り合いの組に匿ってもらうって話?」


「そうそれ……もし決めるなら、今しかない。ここから先はもう……」


引き返すことはできない——。


そして、旭はもう真紘に対して「こっち側に来るな」とは言えなかった。


家族も友達も普通の生活も。


全て捨てさせることになったとしても、自分からは彼女を手放してやれそうになかった。


「私の答えは変わらないよ」


殴られた時に切れてしまったであろう旭の口端にそっとキスをすると、深いキスが返ってくる。


唾液を交換するようなそのキスは、旭の血液の味がした——。