「はいはい、そういうのは邸に帰ってから存分にどうぞ」
見つめ合う二人に割って入ったのは侍女のフェリシーだ。
さすがにフェリシーは最近の二人のイチャイチャ具合にも慣れてきたのだが、見物客を置いてきぼりで二人だけの世界に入られても困る。

「無理…。俺、まだ直視出来ない」
「ええ、私もです」
そんなフェリシーを呆れたように見ているのは、秘書のラウルと家令のマルセルだ。
ずっとアリスの側で色恋沙汰には無頓着な彼女を見てきた二人は、すっかり恋する乙女になった主人の顔にまだまだ慣れないらしい。
しかしアリスが彼らの前でこんな顔を見せるのは、もちろんごくたまにのこと。
普段は相変わらずキレキレの頭脳と態度で家業を取り仕切っているのだから。

領民たちが祝福の花びらを降らせる中、アリスとクロードは満面の笑みで歩みを進める。
と、そこへ、愛犬タロが駆け寄ってきた。
「あらタロ。お祝いに来てくれたの?」
アリスがタロの頭を一撫でして抱き上げようとすると、フェリシーはそれを遮った。
「だめですよ奥様、汚れます」
「あらいいのよ、タロはある意味私たちのキューピッドだからね。ねぇタロ」
愛おしそうに頬ずりするアリスに、タロも嬉しそうにアリスの顔をぺろぺろと舐めた。
「ふふ、タロ、わかるの?あなた、もうすぐ弟か妹ができるのよ?」

「……は?また仔犬を拾うのか?」
「…何言ってるの?私たちの子よ」