結局、近衛騎士団を辞してサンフォース伯爵の専属騎士になるつもりだったクロードは騎士団に籍を置いたままである。
王太子と、騎士団長の強い反対にあって、辞するのは諦めたのだ。
アリスにしてみても、前途洋々の、これから騎士として花開くはずのクロードを自分の側だけに囲い込むなんてしたくなかった。
怪我をしながらも騎馬試合で準優勝するほどの実力を持つ彼を辞めさせてしまったら、王国にとっても損失だと思ったのだ。

結局クロードは近衛騎士団に残り、しかし一つの隊に縛られることはなく団長直属の騎士という、なんとも曖昧な立場になった。
騎士の道を捨てて女伯爵の夫として生きていく覚悟を決めていたクロードにとっては少々不満である。
だかそうではあっても、クロードはいつでもアリスを支えられるように、これから領地経営や事業経営を学ぶつもりでいる。

「団長は人使いが荒いから結局ちょくちょく呼び出されると思うけど」
「貴方は剣を握ってる時が一番イキイキしているものね。でも、危ないことをしてはダメよ。命の危機があったら一番に逃げてね」
アリスはいつも、騎士の妻らしからぬことをクロードに告げている。
王国や王家を命がけで守るのは騎士の勤めであるのだが、アリスにとってはそんなものより夫の命の方が大切だ。
だからクロードはーー。
「わかってるよ。俺は貴女の騎士だからね」
と笑顔で答える。
「今でも俺の夢は貴女の専属騎士になることだから。その時は傭兵たちを排して俺一人だけでも貴女を守れるよう強くなって帰ってくるからね」
「クロード…」
「アリス…」