ミリナは困ったように「ありがとうございます」と眉を下げて礼をする。
なんて優しいのだろう、聖女だろうか。
ミリナがヒロイン――アリアナが大好きだった愛らしく優しい少女でなければひどすぎる、と憤られていてもおかしくない態度をとった自覚がある。
アリアナは、ミリナへの感動半分、申し訳なさ半分で目に涙をにじませた。
それを周囲がどうとったかといえば。
――なあ、アリアナ様を言い負かしたぞあのミリナって子。
――すごいなあ、顔もかわいいし、性格も強くてやさしくて。
――それに比べてアリアナ様は……。
という、アリアナへのマイナスに振り切れた印象であった。
アリアナは自分へ心の内で「ばか!わたくしのばか!」と罵倒しながら、泣かないように目に力を込めた。
その目がますます鋭くなる。けれど、侯爵令嬢として人前で泣いてはいけない、という矜持がアリアナに涙をこぼすことを許さなかった。
それがますます誤解を増長させる、とは分かっていたが、アリアナにはどうしようもなかった。
その時だった。