「はなちゃんが言ってた好きな人ってもしかして山川樹?」
「…はい」
さすが、芽吹先輩、鋭い
私は嘘だって上手くつけないし、本当のことをいうのが正解だと思う
「はぁ、勝ち目ねぇ…」
そう言って、頭を抱える。
そうやって落ち込ませてしまっていることに、少しばかりの罪悪感
馬鹿な私でも流石にわかる。
「でも俺も諦めないから。これからはちゃんと、アピールする」
切なそうに微笑むけど、どこか強い目に、心が揺れる
「それに、山川樹はアイドルでしょ?」
しかもあのSoleのセンターって付け加える。
私は馬鹿だから忘れがちだけど、樹はファンがたくさんいるアイドル
ドームだって埋めてしまうほどで、普通の人なら関わることすら許されない雲の上の存在
「アイドルって、恋愛沙汰とか良くないでしょ?」
その言葉に心が重たくなる
「それは…確かに…」
そうだアイドルだもんね。
本当に樹に恋してるファンの人はたくさんいる。
だから私の存在も、異性の幼馴染がいるってこと頑なに隠し続けてきたのかもしれないって、芽吹先輩の言葉で今更気付いた
「…私、付き合えるとは思ってないです」
両思いになりたいとか付き合いたいとかは思っていない。
ただ幼馴染という立場を利用してでも樹の側にいたい。
何より一番大きな問題は、
樹には好きな人がいること。
望みがないのならば、
もうこれ以上好きになって、戻れないところまで行く前に、気持ちにストップをかけたい
「俺を利用してくれてもいいよ」
そう言って、微笑む芽吹先輩に少し心が揺らいでしまったなんて、口が裂けても言えない
「…でも、芽吹先輩を傷つけるだけです、」
「うん。傷つくね。」
「じゃあ、」
「でもはなちゃんが、山川樹のことで傷ついて、俺がいることで痛みが和らぐなら、俺は本望だよ」
そんな言葉を惜しげもなく告げられて、胸がぎゅっと狭まる
「…芽吹先輩…」
「忘れるために俺と付き合う?」
その目はどうにも辛そうで痛そうな色をしていた。
芽吹先輩と付き合えば樹のことなんとも思わなくなる?
…きっと答えはノーだ
会えなくても、ずっと思い続けてしまうだろう。
絶え間なく側にいた匂いと、抱きしめられた感覚、笑った顔も、意地悪な顔も、頑張ってる横顔も、脳裏に焼きついて離れない。
「ごめんなさい。…それでも付き合えません。思いを伝えるつもりはありません、でもっ、気が済むまで好きでいたいです」
いつになるか分からないけど、
それが明日なのか、半年なのか、10年後なのか、樹が誰かと結ばれる時なのか
幼馴染として、今は側にいたい。
「そっか。……はぁ、2日連続振られた〜」
「あ、え、すみません!」
慌てて謝ると、いつも通りの笑い声が聞こえる
「ははっ良くないけど良い!…アピールはするからね?隙があればいつでも俺んとこ来て」
そう言って笑いかけてくれる芽吹先輩はきっと今無理をしてるんだろうなと、胸が痛くなるけど、それ以上に自分の気持ちは押し殺すことはできなかった。
鳴ったインターフォンに、玄関から顔を出すと、誰よりもかっこいいその姿が目の前に現れる。
「こ、こんにちは」
「…なんだよ、その挨拶」
軽くキャップを被ってる樹は、不機嫌そうに私を見下す。
…好きだって自覚してしまったからには、もうドキドキしてどうしようもない。
最後に会った日のあの切ない表情がフラッシュバックして、ぎこちなくなってしまう。
「ひ、久しぶりだねっ」
不自然なまま、樹を玄関へと招き入れる。
「ずっと撮影してるからな」
樹は超いつも通り。
そうだよ、この気持ちを止めたいんだから、いつも通りに接せなきゃ
「やっぱりドラマってすごいね」
2年前に主演してた時も、毎日夜中まで撮影してた。
スリーポイントシュートも一話から大反響で、今は三話目
もちろん私も欠かさず見ている
「ドラマ入ると3、4ヶ月はドラマ一色になるから」
「…蘭さんとも仲良くなった?」
思わず聞いてしまう
最近はそのことばっかり考えてる。
「蘭ちゃん?……まあ、それなりに?」
「そ、そっか!」
「…なんでそんなこと聞くわけ?」
ポカンとしている樹の表情
蘭さんとのことが気にって仕方がないけど、これ以上は好きにならないようにしなきゃ。
呪文のように唱え続けないと、自然と思いが溢れそうになってしまう
芽吹先輩の言う通り、私の気持ちは迷惑になってしまうんだから。あくまでも勘付かれないようにしないと。
樹にバレたら離れていってしまうかもしれない。
「なっ、なんとなく!?」
そう言って誤魔化すように笑いかければ、不審そうに眉間に皺を刻む樹
「なんだよそれ。…てかこの間本当ごめん、先輩大丈夫だった?」
この間?
樹が芽吹先輩に暴露してしまったことか…
「あ、うん。大丈夫だよ!」
芽吹先輩とはきちんと話したし、いい人だからきっと私たちの関係を他の人に口外したりはしないと思うんだ。
…それに正直そのことよりも、樹への気持ちに気づいた自分のことで精一杯だった。
何故樹が自分からあんな暴露をしたのかはわからないけど、樹はファンの人のために私の存在を隠してきたのに気が気じゃないよね。
「芽吹先輩いい人だし!言いふらしたりしないと思うから安心して!」
安心させるために言った言葉
何故が樹の顔が苦しそうに歪む
「言いふらされて、はなに何かあったら…」
どうしてそんなに辛そうにするのか分からない
私なら大丈夫だよ?
「本当に芽吹先輩はいい人だから、大丈夫!」
芽吹先輩を褒めれば褒めるほど、揺れていく瞳
悲しそうにするの。
どうして?
「信用してるんだな。」
そう悲しそうに呟くから何も言えなくなった。
「あ、これ!誕生日プレゼント!」
話題を逸らそうと、ラッピングされた小さな箱を手渡す。
この前は…渡せなかったからね。誕生日は明後日だけど
「さんきゅ。開けていい?」
嬉しそうにラッピングされた箱を受け取る樹
「うん!」
いつも通り、幼馴染でいなきゃ
「うわっ、超可愛いじゃん。」
無邪気に笑う樹は、そのまま箱からピアスを取り出して耳へ飾る
耳元で揺れる金色で歪な形のフープピアス
「うんうん!超似合ってる!やっぱり樹はなんでも似合うね!」
嬉しそうにどう?って見せてくれる樹。
すっごい似合ってる!
「これ超気に入った」
くしゃっと笑うその笑顔に、容易く胸が高鳴る。
「よ、よかったよっ」
熱っていく顔がバレないように、樹から視線を逸らしてそっぽをむく
なんでこんなに可愛くて、かっこいいの!
どうしよう、もうっ…
「あ、あとこれレジュメね!」
誤魔化すように、用意していたレジュメを樹に渡す。
恥ずかしくて目は合わせられない。
「さんきゅ。てか、今からどっか行くの?」
土曜日なのに大学へしか持って行かないトートバッグを肩にかけている私を不思議そうに見つめる樹
「学園祭の準備に大学に行くの!」
来月だからね、たくさん準備することあるし。
「はなは好きだな、そういうの」
「だって楽しいじゃん!」
「そうなんだ」
分かんない、と悲しげに笑う樹
「樹は行事とか来れないもんね…」
「まあしょーがねぇよ。」
職業柄、樹が参加できた学校の行事は中学の体育祭が最後だった。
高校に入ってからは体育祭も、文化祭も、修学旅行も、学校がパニックになるから全部来ないようにしていた。
樹は青春の全てを犠牲にしてアイドルをしてるんだもん、尊敬するよ。
「はなは店、何すんの?」
「ホットドッグのお店!コスプレして販売するんだ!」
「コスプレ…?」
分かりやすく顔を歪ませる樹を不思議に思う
「うん!私はメイド服着ることになったんだ」
じゃーん、と買ったメイド服をトートバックから取り出し樹に披露する
この間ネットでポチったからサイズは合うか一回着てみないと分からないけど
白いフリルが結構可愛いよね!わくわくする!
「は?なんで?」
「うーん、なんかみんなでコスプレしよう!ってなって」
「…なんで、はながメイド服なわけ?」
一気に不機嫌になる樹
さっきまでピアスつけてるんるんだったのに
「なんか、みんなに勧められたから?」
みんな私に着てほしいって言うんだもん。
後輩も先輩も同期も、男女問わずいろんな人からのリクエストなんだよ
「他のにしろよ」
黒いオーラがマックスで漂ってくる
な、なんで怒ってるの…?
「え、でももう買っちゃったし」
「バカみてぇな男がいっぱい寄ってくんだろ」