「俺は、お前が遠い将来のことを考えるのもいいとは思うが、何時も何事にも必死になって一生懸命なお前が好きだし、そんなお前を見ているのが好きだから。 だから今を……その時、その時を大切にして欲しいと思う。 今が良ければ、それでいいということではないが」
「高橋さん……」
「だが、自分の意思をしっかり持って自分の意見を言えるというのと、我が儘を言うのとは違うからな」
エッ……。
気づかなかった。
私、我が儘になっていたの?
「高橋さん。 私……」
「俺が何時も言っている、お前は今のままでいいんだというのは、そんな素直な心と一生懸命に何事にも頑張る姿勢を何時までも持ち続けて欲しいってことなんだ。 人間、誰しも前に進まなければ生きてはいけない。 だからこそ、お前も自分の意思や意見を言えるようになったことは進歩だし、喜ばしいことだと思う。 でも、それと我が儘になるのとは全く別物だ」
高橋さんの言うように、そうだったかもしれない。 
思い返してみれば、このところ本当に高橋さんに当たり散らしてばかりいた気がする。
我が儘を言って、困らせて……。 
自分がいけないのに、高橋さんのせいにしたりして。 
それでも高橋さんが怒らなかったのは、大人だから。
きっと、他の人だったら怒鳴られたり、喧嘩になっていたかもしれない。
「ごめんなさい。 私……ヒクッ……ヒクッ……」
「また泣く」
高橋さんが、左手で涙を拭ってくれる。
自分では、気づかずにいた。
知らず、知らずのうちに、我が儘になっていたんだ。
高橋さんの大人な部分に甘えて、それをいいことに……。